先日、音響設計を担当させていただいたSalon de l'Olivier(吹田市豊津町)でのコンサートに伺いました。演奏は、Miha Rogina (sax)、Sae Lee (pf)、白井奈緒美(sax、ゲスト)で、sax二人とピアノという中々聴けない構成でした。ソファーに座って聴くのも初めての経験でした。

 

 サロンの内観

(ピアノから客席をみる)
このサロンは、自宅のリビングでサロン・コンサートをしたいというオーナーのご要望によるもので、設計は関井徹建築設計事務所です。内装の主要な素材は決まっていましたので、天井の仕上げで低音と高音の吸音のバランスをとり、コテで模様をつけた漆喰塗りや天井の棹縁で反射を弱めることと音の散乱を図りました。

終演後、演奏の皆さんに音響が良いと言っていただきホッとしました。

 

別室の練習室も担当させて頂きました。こちらはピアノが置かれる練習室で、室を不正形にして定在波を抑えるとともに、3種類の吸音構造を組合せて低音と高音の吸音のバランスをとりました。練習のために響きは短いけれど反射は残すように意図したのですが、本番前に音出しした演奏者の皆さんからはストレスなく演奏できたとのコメントを頂きました。

 

 練習室の内装

(プライベートに関わらない壁上部〜天井部分のみ掲載します)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音響は主観的な部分が多分にあり、こちらの音響的な意図が必ずしも演奏者の意向にマッチするとは限らないので、演奏の方とお会いする時はいつもドキドキです。今日は安堵して帰路につくことができました。

 

Salon de l'Olivier

https://www.facebook.com/salon.de.l.olivier

 

海外で見かけた吸音仕上げ、最終回はその他編です。

フランクフルトホテル食堂 まずはフランクフルトのホテル(リーズナブルなランク)の食堂です。天井が有孔板(穴あき板)で吸音されています。梁の部分が無孔で、その中側が継ぎ目なく有孔板というようにデザインされています。
白色と明るい黄色の組み合わせはウィーンでもよく見かけた色合いです。

フランクフルトメッセ1 次はフランクフルト・メッセの展示ホールのひとつです。女性が寄りかかっている木質の壁は...。

フランクフルトメッセ1up 横スリットの奥に穴が開いた吸音板です。一見すると横スリットは分かりますが、穴までは気づきにくいです。有孔板と類似の吸音特性があります。
スリットと穴を組み合わせた吸音パネルはスイスのn'H Akustik + Design社のTOPAKUSTIKが知られていますが、これがそうか、類似製品かは不明です。
ちなみにTOPAKUSTIK製品は日本では(株)マデラで取り扱っています。

メディアセンター2 次はロンドンにあるローズ・クリケット・グラウンド。ここは「クリケットの聖地」とも呼ばれるクリケット競技場(収容人数28,000人)です。写真はその競技場のメディアセンターで、観客席より高い位置にありグラウンドを見渡せます。

メディアセンター1 天井がうすい水色のクロスを額縁貼りしたグラスウールボードで吸音されていました。このメディアセンターは有機的な形をしているのでグラスウールボードが採用されたのかもしれませんが、目地の暴れがちょっと気になります。また、どうやって取り付けているのかな。

ステープルセンター1 次はロサンゼルスのダウンタウンにあるステイプルズ・センターです。最大20,000人を収容し、バスケットボールやアイスホッケーなどのスポーツのほかコンサートにも使われる大規模アリーナです。

ステープルセンター1up1 その天井に多様されているのが吸音バナーと呼ばれる吸音材です。グラスウールなどの吸音材を薄いシートで包んだもので、写真のように天井から弛ませて吊り下げたり、そのまま垂直に吊り下げたりして使用します。

ステイプルズ1up3 左の写真は吸音バナーを垂直に吊り下げて使用している例で、壁の黒い短冊状のものが吸音バナーです。仕組みはとても単純な吸音バナーですが、日本には入ってきていないようで、類似の製品も見かけません。残念です。

ステイプルズ2 そして同センターでは、アリーナ上部に吊り下げられた大型映像装置の画面とチームマーク以外の全ての部位に、吸音バナーとおなじグラスウールをシートで覆った吸音仕上げがされています。黒いシートが薄いためにグラスウールの黄色がやや透けているのと、写真左下部分にシートのしわが見えることからそれが分かります。空間が巨大なので吸音を徹底していることが分かります。

以上、海外で見かけた吸音仕上げを3回に渡ってお届けしました。

日本でも欧米でも吸音の仕上げ方法は大差ないことが分かります。でも、欧米では吸音仕上げが日本より積極的に採用されているように感じます。日本ももう少し欧米の音環境に対する意識を見習ってよいのではと思います。
 
海外で見かけた吸音仕上げ、第2弾は鉄道編です。

キングスクロス駅1 まずはハリーポッターのホグワーツ行きの列車が出発する9と3/4番線で有名なロンドンのキングス・クロス駅です。再開発によって数年前に完成したエリアのようで、ドーム状の屋根を形成するフレームが印象的です。

キングスクロス駅1up このフレームの上の屋根面をズームアップしていくと、写真のようにパンチングメタルだと分かります。と言うことは、この裏にはグラスウールなどの吸音材が設置され吸音仕上げになっていることはほぼ間違いないでしょう。



キングスクロス駅2 ここもキングス・クロス駅で、最初の写真で左側に見える2階バルコニーの下の天井面です。目地が斜めに入ったパネル状の天井です。

キングスクロス駅2up これもよく見るとパンチングメタルです。しかも鋭角という難しい加工が施されています。

キングスクロス地下鉄駅 次は同じキングス・クロス駅ですが、こちらは地下鉄のホームです。シリンダー状の天井に長穴の有孔パネルが設置されています。ただ、他の地下鉄駅は吸音されていない所がほとんどなので、再開発の一環で改修されたのかもしれません。
 音と関係ありませんが、トンネルが小さいのが分かりますか。

セントパンクラス駅1 次はキングス・クロス駅のすぐ隣にあるセント・パンクラス駅です。ロンドンとパリを結ぶ国際特急ユーロスターの発着駅でもあります。

セントパンクラス駅1up 駅構内の天井はほとんど全面が写真のようなパンチングメタルのパネルとなっています。

セントパンクラス駅3 ここは同駅内のユーロスターのビジネス・ラウンジです。実は細長く狭い空間なのですが、大きな照明器具と鏡によって広がりを感じる上品な空間になっています。

セントパンクラス駅3up そしてここも天井はパンチングメタルのパネルです。上の写真のように緩くシリンダー状になっており、デザインのアクセントにもなっています。

セントパンクラス駅2 そして同駅のホーム。明りとり窓がある、のこぎり状の屋根になっています。

セントパンクラス駅2up その屋根もパンチングメタルのパネルでした。ここまで全部パンチングメタルです。イギリスではパンチングメタルは吸音の定番のようです。

メッセ駅1 次はドイツ、フランクフルトのメッセ駅です。この駅は、毎年ミュージック・メッセが開催されるフランクフルト・メッセの玄関駅です。プラットホームからエスカレータを上がると改札はなくてすぐメッセのエントランスです。

メッセ駅1up ここの天井は吸音性のパネルが貼りつけられていました。

ドイツ特急1 ここからは列車の車内です。まずはドイツの都市間を結ぶ特急列車。

ドイツ特急1up 天井の中央部のパネルに穴が開いていて、さりげなく吸音しています。パネルはプラスチック系のようです。

ウィーン鉄道 次はウィーン国際空港からウィーン市内へ向かう列車の車内です。

ウィーン鉄道up こちらはかなり存在感のある穴あきパネルです。こちらも材質はプラスチック系のようです。

viena tram そしてこれはウィーン市内のトラム(路面電車)の車内です。アップの写真がないので分かりにくいですが、他の列車と同じように天井の中央部が穴あきになっています。ここの材質はスチールのようです。

以上、鉄道編でした。
鉄道系ではパンチングメタルの採用率が高いようです。耐久性、メンテナンス性が理由ではないでしょうか。

次はその他編の予定です。
昨年から今年にかけて海外の展示会に行く機会が何度かありました。その道中で目についた吸音仕上げの実例を公共施設を中心に紹介します。

第1弾は、空港編です。


ボストン空港1 まずはボストンのローガン国際空港の国際線ターミナルのチェックインエリアです。全面的に木が使用されています。そして天井の板をよく見ると...

ボストン空港1up なんと有孔板(穴あき板)でした。スリットに設置されたスピーカを撮影しようとしてカメラでズームアップしてはじめて有孔板だと気づきました。そうでなければ有孔板とは全くわかりません。

LAX1 つぎはロサンゼルス国際空港の国際線ターミナルのチェックインカウンター。上部に木製のパネルがあしらわれ、無機質な空間にナチュラルなアクセントを与えています。

LAX1up これもよく見ると有孔板なのです。ボストン空港の天井に比べれば見て有孔板とわかる距離にありますが、それでも普通の方は全く気づかないし、見た目に違和感も感じないと思います。私は職業柄気づきましたが。

LAX2 同じくロサンゼルス国際空港の搭乗ロビーです。天井が白くて高い空間の中に、木調の庇が連続しています。そして、

LAx2up1 この木調の庇には微細穿孔板(MPP,Micro-Perforated Panel)が使用されていました。微細穿孔板はシートや薄い板に直径1mm以下の微細な穴を開けたもので、背後に空気層を持たせて設置することで吸音効果が得られます。庇は木に見せていましたが、木目調のシート張りのようです。
 微細穿孔板は一般の有孔板より意匠的な影響が少ないですが、吸音する周波数範囲が狭いので注意が必要です。

LAX2up2 一方、白く高い天井面はパンチングメタルです。天井が高いので穴はもちろん、目地さえ気づきません。

ウィーン国際空港1 つぎはヨーロッパに飛んで、ウィーン国際空港です。2012年にオープンしたという新しいターミナルで、モノトーンでモダンなデザインです。

ウィーン国際空港1up ここの天井面は照明器具を除いてすべてパンチングメタルのパネルになっていました。

ウィーン国際空港2 同じくウィーン国際空港。ここは先ほどの到着ゲートからバッゲージクライムに向かう通路です。天井一面がシームレスな有孔板になっています。この全面シームレス有孔板、ウィーンやドイツでは何度か見かけましたが、日本ではあまり好まれないですね。どうしてでしょう。

ウィーン国際空港2up1 点検口の周りはこんな風に穴をふさいでいます。

ウィーン国際空港2up2 照明器具の周りも点検口と同じディテールで仕上げられています。

ドゴール空港ラウンジ1 空港編の最後はシャルル・ド・ゴール国際空港のラウンジです。天井の木パネルはすべて有孔板です。日本では、有孔板=格好悪いというレッテルが貼られている感じがしますが、これをみて全然そんな風に感じません。

ドゴール空港ラウンジ2 これは同じラウンジの別エリア(上の写真の右側)ですが、木パネルでないグレーの天井部分はアコースティック・シーリング(日本でいう岩綿吸音板のようなもの)です。素材を変えていますが全面吸音仕上げになっています。

以上、空港編でした。
欧米でも有孔板が吸音仕上げのメジャーな材料のようです。天井を吸音処理するのは日本も同じですが、有孔板の使い方は日本より大胆で、しかも格好良いようです。

次は鉄道編の予定です。
音響設計を担当させて頂いた d&b audiotechnik Japan社(横浜市都筑区)のデモルームが完成しました。

Black range side BLACK RANGE side

デモルームは同社のスピーカとパワーアンプのラインナップを常時備えて、試聴やセットアップなど各種デモンストレーションを行える空間として、また、各種セミナーなどにも活用する空間として計画されました。

デモルームの一方のエンドがツアーサウンド向けのBLACK RANGE製品エリアに、他方が設備音響向けのWHITE RANGE製品エリアになっています。


White range side WHITE RANGE side

音響設計のコンセプトを次のように設定しました。

 1) スピーカの素の音が分かるように、空間の音響がスピーカ音に癖を与えないようにする。
 2) 響きは抑えるが、無響室のように不快でなく、セミナー等で長時間いても違和感のない音響とする。

そのために
 ・響きを抑える(低音から高音までできるだけ均一に)
 ・フラッターエコーの抑制
 ・定在波、ブーミングの抑制
 ・適度に反射を残す

これらを実現するために内装デザインにも見えないところにも音響的な処理を取り入れた設計をしていただきました。特に側壁にその多くが詰まっています。


Wall and ceiling 音響と意匠を兼ねた側壁のななめ
 木格子と天井の木ルーバー
 白い壁面はグラスウール系の
 吸音ボード

内装には東京・多摩産の杉材を無塗装で使用しました。これは内装設計をお願いした すわ製作所の提案によるもので、地産材を使うことで東京の森林整備に役立ち、環境保全にもつながるとのことです。「音響」と「人」と「環境」に配慮した、居心地のいいデモルームになりました。


デモルームでは6月から定期的に3つのセミナー(電気音響学セミナー、ラインアレイワークショップ、リモートネットワークワークショップ)が開催されます。どなたでも無料で参加できるそうですので、興味のある方は同社HPをご覧ください。
1