昨年1月に、日本音響学会誌(78巻1号)の小特集「様々な空間・状況で良好な音声情報伝達を確保するための課題・工夫」において、当方が執筆させていただいた原稿 「音声情報伝達の重要性が見落とされがちな施設の実情と対策−屋内スポーツ施設、学校の体育館を例に−」 がWeb公開されました。

 

下記リンクよりPDFのダウンロードが可能です。参考にしていただけたら幸いです。

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/78/1/78_21/_article/-char/ja

COVID-19が無ければ2020東京オリンピック・パラリンピックの夏を迎えていたところですね。延期されて残念ですが、来年の開催を期待したいと思います。

 

ちなみに私が協力させて頂いた会場施設は、2月末に、2週間に渡り夜間作業だった音響調整と音響測定を無事終えて、出番を待ってます。なかなかの仕上がりと思います。


4月29日、建築音響・電気音響ともに設計させて頂いたインマヌエル船橋キリスト教会(千葉県船橋市)の新会堂の献堂式に出席しました。

 

 新会堂の内観と献堂式の様子
 

この教会はもともとJR船橋駅の南口側にあった旧会堂が市の計画道路と重なったために北口側に移転して新築されたもので、新会堂はコミュニティー・チャペルと名付けられました。また計画道路と重ならず残った敷地にも集会機能をもつバイブル・センターが建設されました。

設計監理は、室伏次郎氏((株)スタジオアルテック代表取締役)と濱口光氏((同)ミタリ設計)で、構造設計はTIS&PARTNERS、設備設計はZO設計室です。

 

 コミュニティー・チャペルの外観
 

設計の初頭、当時の会堂で礼拝の見学と残響時間の測定をさせて頂きました。築50年を超える会堂はピアノと電子オルガンを備えながらも響きがとても短い会堂でしたが、大切に使われてきたことが見て取れました。また、とても印象に残ったのは、牧師のお説教が暖かく穏やかに囁きかけるような優しい音で聞こえていたことでした。この拡声の印象を新会堂にも引き継ぎたいと思いました。

 

 旧会堂の内観(2014年10月撮影)
 

[室内音響設計]

室伏氏による新会堂はコンクリート打ち放し仕上げで、天井高約8mの2層吹き抜け、両サイドと後部に2階席を備えた320席の空間でした。音響的にも以前と全く異なる響きの長い空間となるために最初は心配したのですが、室が不正形で音響的な問題のない形状だったことと、教会の方々が長い響きを好意的に考えていることから、電気音響による拡声が破たんしない範囲で響くように設計しました。具体的には、1階席の天井(2階席の底面にあたる部分)に有孔板を、2階席の側壁の一部(木ルーバーの一部)にグラスウール吸音材を配置しました。

 

 2階席から臨むチャペルの内観

 光の十字架が印象深い
 

 1階から2階側方を臨む
 

残響時間(500Hz)は空席時2.3秒、1階席に170名程度着席時1.6秒ですが、数値よりも響きが長く感じられます。会衆の方々からは讃美歌が豊かに響いて嬉しいとの声を多く頂きました。

 

[電気音響設計]

響きの長い空間のスピーカシステムというと、最近ではラインアレイ型スピーカが真っ先に思い浮かぶことと思います。ですが、旧会堂の暖かく囁きかけるような拡声音を新会堂にも引き継ぎたいと考えた時、音が遠くから飛び出してくるようなラインアレイ型スピーカの聞こえ方が私にはしっくりきませんでした。

 

 2階サイド席とスピーカ

(聖歌隊席なので集音マイクとモニタースピーカも備えています)
 

そこで、良質な小型のポイントソーススピーカ(Martin Audio社 DD6)を堂内に分散配置することにしました。分散配置によってスピーカと聴衆の距離を短くし、必要な音量を抑え、音質バランスの良い音のまま聴衆に届ける計画です。幸いにも室伏氏がスピーカの露出設置を認めて下さったので、音響的に良い状態が実現できました。もちろん露出設置するからには取付金具が極力見えないようにするなど工夫しています。

 

 講壇側を横から臨む

(小さい黒四角が拡声用スピーカ。

 大きな黒四角は電子オルガン用スピーカ。)
 

音響調整を終え、不思議なくらいに素直なスピーカのお陰か、自分でもちょっと驚くほど良い感じに仕上がりました。マイクロホン、スピーカ、配置、空間の形と材質など様々な条件が上手くバランスしたようです。

 

オルガンと讃美歌が豊かに響くなかで、説教の言葉は近くの相手に囁きかけるように優しく聞こえるように。献堂式での拡声を聞いて、その意図が実現できたと嬉しく思いました。また、その音は室伏氏のとても趣のある建築空間とも上手く融合したように思います。

 

[バイブル・センター]

南口側のバイブル・センターは2階に集会室があります。こちらもコンクリート打ち放しで、室の前後がガラス張りです。響きが長くなることが予想されたので、天井の梁間に吸音材を配置し、壁の柱部分を音を散乱させる形状とし、後方窓に吸音性の縦ルーバーブラインドを備えて響きを調整しました。

 

 バイブル・センターの外観

 (教会提供)
 

音響設備は教会のご要望で移動式としました。コミュニティー・チャペルと同じスピーカとミキサーで統一を図っています。

 

 集会室の内観
 

コミュニティー・チャペルとバイブル・センターが多くの方々に長く親しまれていくことを期待しています。

 

3月1日、和歌山市に内装とサウンドシステムの音響設計を担当したアコースティック重視のホールが完成しました。



JAZZやクラシックを志向しながらも演歌やポップスなど幅広い演目で「音響のいい空間を」というクライアントの要望に応えた、33席の小さな、大人の、濃密な音楽空間です。

飲食店や医院が入居する建物の1テナントという小空間であり、防音と心地よい響きと多様な音楽・編成への為に、様々な音響的工夫をしています。

また、スピーカシステムはクライアントの意向もありd&b audiotechnikを採用しました。メイン:Yi7P、サブウーハ:Bi6、コロガシ:E8、アンプ:10Dという構成です。ミキサーはALLEN&HEATH Qu-16をチョイスしました。



ピアノ、バイオリン、JAZZトリオ&ヴォーカル、カラオケなどのテスト演奏を経てオープニングセレモニーを迎えました。また、初めてプレス発表にも出て、情報誌にも紹介されました。
http://www.nwn.jp/news/16031289_luru/



オープンから幾つかのコンサートが開催され、いずれも好評です。今後のコンサートスケジュールやホールの案内をはじめ、クライアントがホールに込めた思いも分かるホールのHPも是非ご覧下さい。
LURUHALLホームページ


先日、ドッジボール大会の応援に区立体育館へ行きました。

ここはたしか7〜8年前に、床とアリーナ階の壁を除いて、天井と観客席階の壁が全面有孔板に改修されました。

体育館1 体育館の内観。
 壁から天井の白い面がすべて有孔板(穴あき石膏ボード)です。
 青い筒状のものは空調ダクトです。

スピーカシステムも、ラインアレイ式スピーカがアリーナ面へのメインに採用され、観客席の通路上部にも16cm級ウーハと思われる余裕ある大きさの天井埋込型スピーカが多数設置され、アナウンスが非常によく聞き取れるようになりました。

体育館2 アリーナの壁に新設されたラインアレイ式のスピーカ(木の壁に設置された黒色で弓なりのもの)

体育館3 観客席通路の天井に埋め込まれたスピーカ
(四角い防球ガードがついているもの)
 スピーカ同士の間隔が近いことにも注目。
 有孔板も確認できます。

新築時からこれ位、音に気を使って欲しいものです。

吸音と落下防止改修

そしてこれに関連する最近の話題として、東日本大震災での天井材落下による被害を踏まえて促進されている耐震対策があります。
多くの施設で天井をはじめ落下の可能性がある部材を一切撤去する方法が採用されていますが、そこに注意が必要です。

この夏に私が相談を受けて伺った体育館は、当初ルーバー天井でその裏にグラスウール吸音材が敷き詰められていましたが、落下対策のためにグラスウールも含めた天井の一切を撤去し、露出した天井裏を壁はボード貼りし、屋根裏は綺麗に塗装していました。

・天井裏が露出したことで空間の容積が増えた
・グラスウール吸音材がなくなった
・多少の吸音性があった屋根裏材の木毛セメント板を塗装したことで吸音性が低下した

以上の3点が影響して、改修後の体育館の残響時間が約5秒!になっていました。

これは、2〜3mまでの距離なら肉声で会話ができますが、離れて声を張り上げて話すと響きが急に発生して会話に支障が生じはじめる程度です。それでもスポーツをするだけならまだ何とかなりますが、大会での挨拶や選手の呼出など音響設備を使用した際には非常に聞き取りにくく、同施設では大会運営に支障がでているとのことでした。

更にスピーカシステムの計画にも問題がありました。低予算のためか左右の観客席の上部に小型のスピーカが4台ずつしかなく、しかもそのスピーカがお互いにアリーナを挟んで反対側の観客席へ音を届けるように設置されていました。これでは各スピーカは対向する観客席まで届く大きな音量を出さなくてはならず、そんな向きにそんな音量を出したら残響だらけになって全く聞き取れない状況になるのは当然です。スピーカを設置する空間の響きのことなど全く考慮していない計画としか言えません。

現在は仮設のスピーカを使用して運用しているそうですが、根本的な解決にはなっていません。指定管理者は早急な改善を切望されていました。

いずれも改修計画時に音響のことを気にしていれば、ここまでの問題にならずに済んだはずです。このような問題が生じている施設が、潜在的に沢山あるように思います。
上記を参考にしていただき、是非、事前に音に対する配慮を検討して頂きたいと思います。
 

学芸会や運動会など、大きな学校行事のある時期を迎えています。私も先週末までに、連合運動会と吹奏楽クラブの演奏会、学芸会を見に行きました。

学校に行く機会が増えると気になることのひとつに「音」があります。隣の教室や廊下から漏れてくる音や、体育館・校庭でのマイクの音など。子どもたちの生活・学習環境として、もう少し静かに、もう少し聞きやすくしてあげたい、するべきと思うのは私だけではないと思います。子どもたちの学習態度や成果だって良くなるでしょう。

そんな学校の音環境の状況に対して、2008年に日本建築学会が「学校施設の音環境保全規準・設計指針」をまとめました。これは近年、建築学会が制定を進めている環境工学分野での推奨基準(日本建築学会環境基準)のひとつで、音分野での第1号の規準です。

学校アカスタ表紙「学校施設の音環境保全規準・設計指針」の表紙

小学校〜高等学校を対象に、学校施設が備えるべき音響性能として以下の5項目を採り上げ、その推奨値を示しています。

 ・室内の騒音レベル
 ・隣接する室間の遮音性能
 ・床衝撃音遮断性能
 ・残響(室内の響き)
 ・電気音響設備の動作特性

各音響性能についての説明や学校施設をつくる上での留意点や参考例のほか、問題が起こりやすいオープンプラン教室や体育館、音楽関連教室などについては設計例も紹介されています。

さらに注目は、電気音響設備に関する推奨値が示されたことです。

これまでホールや劇場などの特殊施設に限られていた電気音響設備の性能目標から、つぎの基本的な4項目を採り上げて学校施設へ適応しています。

 ・音量に関するもの: 最大再生音圧レベル、音圧レベル分布
 ・音質に関するもの: 伝送周波数特性
 ・拡声の安定性に関するもの: 安全拡声利得

これらの性能値がまた一般的ではないため、現段階では附属書扱いですが、おそらく電気音響設備の性能について規定した唯一の規準でしょう。電気音響設備の設計や施工において目標とすべき性能が明示されたことで、適切な性能が実現されて、子どものお芝居の台詞や選手宣誓の声、始まる競技の種目や選手名や結果のアナウンスなどが、きちんと聞こる学校が増えることを期待したいと思います。

建築や設備の設計、施工に携わっている方をはじめ、自治体の建築・建設担当や教育委員会の方など施主側の方々など、関連する多くの方々に参考にしていただき、音環境の良い学校が沢山増えることを期待したいです。
なお、本書は日本建築学会のほか、web書店各社で取り扱いがあります。
 

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