1/30〜31の2日間、東京都杉並区の座・高円寺にてJATETフォーラム2016/17が開催されました。音響部会は初っ端で「劇場等演出空間におけるオーディオ・ネットワークの現状」についてセミナーがありました。

 

 座・高円寺

(建築設計:伊東豊雄建築設計事務所、音響設計:永田音響設計)
 

 講演は次の3件でした。

 

・ネットワークオーディオ伝送(Audio over Internet Protocol):栗山譲二氏(J.TESORI)

 

 栗山氏からはAoIPの概要説明がありました。そのなかで音声伝送に重要な同期方法についてAoIPのほとんどがPTP(Precision Time Protocol)という方法を採用していること、そしてそのPTPパケットを優先的に送信するためにスイッチにはQoS機能(Quality of Service)が必要とのことでした。QoS機能がないスイッチでは一見問題なく動作しているように見える場合があるが、いつネットワーク障害が起きてもおかしくない状況との説明は重要な情報でした。

 

・ネットワークオーディオで使うケーブルとスイッチについて:阿部春雄氏(デジコム)

 

 阿部氏からはネットワークを構成するハードウェア(ケーブルとスイッチ)について解説がありました。接続に使用するEthernetケーブル(ツイストペア線)では、ケーブルを無理に曲げるとその個所でインピーダンスが変化し反射減衰が発生することや、Danteではスイッチの配置によってレイテンシーが何倍も変ることの説明がありました。また、Dante用スイッチに必要な機能の説明のなかで、省電力機能(Energy Efficient Ethernet = EEE機能)が無効にできることが必要との話もありました。

 

・音声伝送ネットワークの構築、運用、知っておきたいことなど。:菊地智彦氏(ヤマハサウンドシステム)

 

 菊地氏からはネットワーク構築の際に経験するリスクと現状考えられる対策方法について、実際の現場での経験をもとにした解説がありました。接続が自由になる<>なんでも接続できてしまう、配線コストが削減できる<>大量の情報が1回線に集中する、様々な通信が単一のインフラに乗る<>通信の競合が発生する、など現場視点ならではのメリットとデメリットが紹介されました。なかでも、PCをネットワークに繋げばどこからでも操作可能<>外部オペレータが持ち込んだPCでも固定設備が操作できてしまう、というセキュリティ上の問題についてはハッとさせられました。

 

 セミナー会場の様子


 

 3人の講師が共通して強調していたのは、「オーディオネットワークの安定性は”スイッチ”が握っている」でした。安価なスイッチは上記の必要機能が無かったり、それを設定・制御できないから安価とのことです。固定設備では通常10年〜20年というスパンで安定して動作するように考えなければなりません。これでオーディオネットワーク用のスイッチにどうして安価なものを使用してはダメなのかきちんと自信を持って説明ができます。

 

 また、1日目の最後に各部会を迎えてシンポジウムがありました。そのなかで、栗山氏がとても重要なことを話されていました。それは、

 

・AoIPはコンピュータ技術を中心につくられた規格をベースにしているので、ややこしくても受け入れるしかない

・自分でできなければオーディオネットワーク専門の部門やスタッフを作ったらよい。(音響家がオーディオネットワークを学んで身に着ける、または、ネットワーク技術者に音響を学ばせる)

 

 後者はサウンドシステムのオペレータに対するシステムチューナーと考えれば分かり易いですね。実際にネットワーク専門部門を構えている会社もありますし、今後益々ニーズは高まりそうです。

 

 シンポジウムの様子
 

 オーディオネットワークはもはや避けては通れないものでしょう。その向き合い方を改めて学ぶ良い機会でした。

 

 1/23に長野県舞台技術者協会2017研修会(長野県公立文化施設協議会技術研修会 共催)で講演させていただきました。

 会場は2016年1月に開館した飯山市文化交流館「なちゅら」(建築設計:隈研吾建築都市設計事務所、音響設計:永田音響設計)で、私が舞台音響設備についてお手伝いさせた頂いた施設です。当日は大雪となり、施設はすっかり雪に包まれていました。

 

 雪中の飯山市文化交流館
 

 講演のタイトルは協会の要望により「劇場の音〜建築音響と電気音響〜」となりました。様々なホール・劇場が建設されるなかで、施設の性格付け(多目的ホール、音楽主目的、演劇主目的、など)がどのような経緯で決まり、残響時間に代表される建築音響の条件がどのように計画され建築設計に反映されるのか、さらにその残響(建築音響)と電気音響はどのように兼ね合いが取られるのか、ということを知りたいということでした。

 

 公共ホールの多くは施設が完成した後に施設を監理運営する舞台技術会社が募集され決まります。そのため施設の設計コンセプトや計画経緯などが舞台技術者サイドに伝えられる機会がないという現状があります。今回の講演内容の要望もそこに起因していると分かります。これまで多くの公共ホール建設に係った経験をもとに、建築設計と音響設計の流れをできるだけ分かり易くお話ししました。

 

 講演会場(多目的ルーム1)の様子
 

 講演の後は施設の大ホールの見学がありました。(残念ながら小ホールは利用中で見学できませんでした。)大ホールは可動観覧席を備えた500席で、舞台幕から音響反射板に転換できる多目的ホールです。可動観覧席を収納して客席前迫を上げることで平土間形式にもなります。

 

 施設の方から、高齢者が多い合唱団の練習利用の際には、舞台から客席への移動時に階段を昇降するのが大変ということで、客席前迫を上げて平土間位置とし、舞台と客席を段差ない状態にして利用しているとの紹介がありました。客席前迫があるとそのような使い方もできるのだと気付かせてくれました。

 

 大ホール見学の様子

(客席前迫が上がっている状態)
 

 今回、私自身も建設に関わった施設の運営の方とはじめてお会いしお話しできて、とても有意義な機会でした。今後も現場からのフィードバックを沢山得たいと思います。

 

 半年も前のことになりますが、サウンドシステムの音響調整に用いられる音響測定・分析ソフト「Meyer Sound SIM System」によるシステム最適化のパイオニアとして有名なBob McCarthy氏のサウンドシステムセミナーに参加しました。このセミナーはSIMの初期の頃から長きに渡りBob氏と交流のあるSCアライアンス社の50周年記念行事のひとつとして企画されました。

 

 セミナー会場の様子
 

 冒頭、Bob氏はSIMにまつわるエピソードを語りました。

 

 当初、システムの特性はピンクノイズなどの測定用音源を再生しなければ測定できなかったので、観客が入って本番が始まると、チューニング時から音が変化したのが耳で分かっても、それを測定により物理的に把握することができませんでした。それを把握する方法としてJohn Meyerg氏によりデュアル・チャンネルFFTアナライザーによる「音源に依存しない測定=Source Independent Measurement =SIM」システムが開発されました。

 

 SIMの効果を実感したMeyer氏やBob氏らは、この手法がすぐに業界のスタンダードになるだろうと考えていたそうです。それが今日のような普及までに20年もかかるとは想像さえしなかったそうです。当時、音楽的な経験を重視するミキサーやアーティストが、機械的なアナライザを受け入れなかったとのことでした。

 

 Bob氏は、客入り後の音の変化が会場全体に同様に起こっているのか局所的なのかを知りたいと考えていたそうです。そして初めて会場内に8本のマイクを設置した状態で本番を経験したのが、なんと1987年大阪城ホールでのユーミンのコンサートだそうです。これによりBob氏が何年も探っていた客入り後に生じる音の変化が局所的であることが確認され、その後のシステムデザインや最適化のアプローチにとても大きな役割を果たしたとのことでした。日本のユーミンのコンサートがそんな役割を果たしていたとはとても興味深いエピソードでした。

 

 Bob氏は、会場内に複数マイクを設置できたのは日本の観客のお行儀がいいお陰で大変感謝している、と付け加えました。笑

 

 貴重なセミナーテキスト
 

 さてセミナーですが、前半の話題はスピーカの「カバレージ」についてでした。1台のスピーカのカバレージと客席の関係、複数のスピーカによるカバレージの合成・・・。ポイントソースはもとより、ラインアレイの理論にも関連する音に共通の基本事項です。

 

 これらはシミュレーションソフトがなくても大まかに音場を把握できる基礎知識です。というよりも、まず基礎知識をベースに平面・断面的な音場を考えることが重要で、その次にそれをシミュレーションで3次元的かつ数値的に詳細に補完していくというのが本来の手順でしょう。音響シミュレーションが普及している現代のセミナーで、Bob氏が最初にカバレージの解説をされたことにとても共感しました。とかく何も考えずにいきなりシミュレーションで音圧分布だけ計算しはじめる人が増えつつあります。その前にソフトを使いこなすための音響知識に目を向けて欲しいものです。

 

 セミナー後半はサブウーハの指向性制御の理論と実験で、こちらも興味ある内容でした。

 

先日、日本音響家協会のセミナー「楽器を知ろう」SAX編を聞きに国立音大へ行きました。



SAXの発明者、アドルフ・サックスが実際に博覧会に出品したアルトサックス(!)やソプリロ (ソプラニーノより小さいサックス)、コントラバスサックスという貴重な楽器達の実物が見られて音が聞けるという、貴重な経験をしました。

セミナーでは実際に演奏音をFFT分析した結果がスクリーンに表示されました。サックスの音には整数倍音が豊富に含まれているのが良く分かりました。これがサックス独特の音色を作るんですね。

マイク位置による集音音質の違いや、同位置でのマイク種類による集音音質の違いも興味深いものでした。

最後に演奏された国立音大生によるサックス四重奏も素晴らしく、とても貴重な体験を沢山したセミナーでした。
先日試聴した2つのスピーカを紹介します。

alcons audio

コモドマッティーナ社で取り扱いを始めたalcons audio社(オランダ)のリボンドライバ・サウンドシステム。
3月に芝浦スタジオでの試聴会に行きました。
昨年のInterBEEで初紹介され、その際に気になった方も多いのではないでしょうか?
今回はラインアレイタイプもお目見えし、コンプレッションドライバとは違うリボンドライバの音質を堪能しました。

alcons 

Intellivox (JBL)

JBLから設備向けDSP内蔵パワードのラインアレイスピーカが発表され、4月に北とぴあでの発表会に行きました。
音の広がりや方向を制御するビーム・ステアリングを発展させて、音のビームの形を制御するビーム・シェイピング技術が特徴です。奥行が薄いのも特徴でしょうか。
(Harmanが買収したオランダ Duran Audio社のAxysブランドの製品です。)

intellivox 

ともに興味深い製品です。詳細は取扱各社にお問い合わせください。
※偶然にも2つともオランダでした。
 
3月6日に日本音響家協会主催の 楽器を知ろうセミナー「マリンバ」編 が国立音楽大学のオーケストラスタジオで開催されました。

マリンバ1 マリンバが沢山並んだ会場の様子

マリンバ奏者で国立音楽大学非常勤講師の新谷祥子氏を迎え、第1部では、新谷さんからマリンバのルーツ、現代の楽器の説明、演奏方法などが紹介されました。

第2部は音響家の視点で、マリンバ演奏音の収録音に際し、マイク機種や位置の違いなどを実験した。新谷祥子氏による生演奏をマイク位置を変えて複数回録音し、それらを再生して比較試聴するという興味深い実験でした。

マリンバ2 マリンバへのマイキングの様子

ここで気付かされたことがありました。おそらく私を含め多くのリスナーが「いいな」と感じた音(マイク位置)は音が丸くで豊かな印象のものでしたが、演奏者の新谷さんが「私が聴いているマリンバの音にいちばん近い」と言われたのは、硬く衝撃的なキツイ音でした。

リスナーにとってのマリンバらしい音は楽器から離れた客席で聞こえる音であり、演奏者にとってのマリンバらしい音は演奏時の間近で聞こえる音であり、そこには必然的に差があるということ。考えれば当然のことですが、それに気づかずについ自分を基準にしていまうことは多々あることでしょう。

とても当然だけど重要なことに気付かせてもらいました。

マリンバ3 間近でマリンバを見られた休憩時間。

最後に、新谷祥子&アラヤマ☆リンバによるアンサンブル演奏を拝聴しました。
豊かな倍音にたっぷり浸って心地よい時間でした。

興味深いお話しと実験・体験と気づきが得られ、とても有意義なセミナーでした。
興味を持たれた方は日本音響家協会のHPもチェックされてはどうでしょうか。

(一社)日本音響家協会 http://www.seas.or.jp/

※会場となった国立音楽大学のオーケストラスタジオは、2011年に建替え竣工した新1号館にあるオーケストラ用のスタジオで、同館は他にオペラスタジオと合唱スタジオ、12室のアンサンブル室、108室のレッスン室などがある素晴らしい施設です。建築設計は(株)松田平田設計、音響設計は(株)永田音響設計です。
 
今年のFBSR会音響技術研究会は2015年1月27日〜28日に山形市民会館で行われました。

テーマは「定番&軽薄単省」〜定番マイクとは?オーディオの大敵「軽薄短小」に挑戦し「軽薄単省」〜です。
例年通り大ホール、小ホール、楽屋をフルに活用した実地的な研修会に、今年は90名弱の参加者があつまり貴重な時間を過ごしました。

1日目のテーマはマイク。前半はレコーディングエンジニアの行方洋一氏の貴重なお話しと、氏が試行錯誤して録音された音源の試聴がありました。「”音楽をつくるため”に手元にある限られた機材を最大限に”使いこなせ”」という氏のお話しがとても重要に感じます。

後半はスピーチ、民謡、ピアノ弾き語りを色々なマイクで聴き比べです。定番とされている機種の他、ビンテージのすごいマイクが揃いました。歴代のマイクの聴き比べでは、開発者が「次のマイクはこういう風にしよう」と考えて作ったのではないかと想像できるほどで、とても興味深い経験でした。

FBSR15-2 ピアノ弾き語りでのマイク試聴。

 ピアノ用のマイク入力にvo.マイクとの距離分のディレイを入れ、vo.マイクに被るピアノの音と揃えることで、ピアノの音がすっきりしvo.が前に出るようになる、といったテクニックの実践もありました。
FBSR15-1 民謡でのマイク聴き比べの様子。
 三味線の写真しか載せていませんが、唄い手のマイク聴き比べもしました。
FBSR15-3 集まったマイクたち。ビンテージも。

2日目の内容は小型軽量のシステムです。下記の製品などが紹介され、生バンド演奏のPAで音出し試聴が行われました。

スピーカ:Coda Audio社 G715-96、RCF社 EVOX5、K-array社 KR202+KMT18
ミキサー:Roland社 M-200i、ヤマハ社 CL1、MIDAS社 m32

FBSR15-4 軽薄短省システムの試聴の様子。

FBSR15-5 軽薄短省で紹介されたスピーカ。

以上、大ホールでの内容を紹介しましたが、小ホールでは同時進行で主に放送局や録音を中心にした研修が大ホールとリンクしながら進行されたのも例年通りです。

自主参加的で息の詰まらない音響技術研修会、次回(第25回)は平成28年1月26・27日開催予定です。
 
3/19に行われた日本音響学会の建築音響研究会(3月度)に出席して発表をしてきました。

会場は2012年8月オープンした静岡市清水文化会館「マリナート」です。
(PFI事業。建築設計:槇総合計画事務所+大成建設、音響設計:ヤマハ)

私はマリナートのとなりにある清水テルサ(2000年完成)を担当していましたが、当時は清水駅の東側に出口はありませんでした。様子が一変しているのに驚きました。

 会場の静岡市清水文化会館
 「マリナート」


前半は小ホールにて以下の発表がありました。

・スピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について/内田匡哉(内田音響設計室)
・拡散音場は存在するか?/久野和宏
・NC曲線の拡張利用に関する検討/川上福司(Sound Concierge),寺園信一(アコー)
・静岡市清水文化会館マリナート −文化によるまちづくり−/福永知義(槇総合計画事務所)
・静岡市清水文化会館マリナートの音響設計/宮崎秀生(ヤマハ)


 研究発表の会場となった
 小ホール


研究発表のトップバッターは私でした。発表内容の概要は以下のとおりです。

「スピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について」

ホールや劇場に音響設備のスピーカが設置される場合、その多くは建築意匠と一体となるように内装仕上げの中に設置され、前面には化粧パネル等が取り付けられます。建築意匠的には当然のことであり理解しますが、その状況によってはスピーカの再生音質に大きく影響を与えることがあります。これらは頻繁に経験することですが、その影響をデータとして示した例は多くありません。そこでスピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について、いくつかの実ホールでの測定結果を紹介しました。

また、そのような周波数特性への影響はイコライザ装置によって電気的に除去できると思われがちですが、実際には影響を除去することはできません。なぜならイコライザによる音響調整は元信号に対して施すもので、影響によるレベル増加(あるいは低減)を考慮して予め元信号を低下(あるいは増加)しているからです。

つまりスピーカの設置環境によって生じた影響は電気的には除去できずに必ず残ります。よってスピーカの設置場所に対する建築面での音響的配慮が基本的なスピーカの再生音質を左右すると言えるので、十分な配慮が必要です。

というものです。興味のある方は資料がありますのでお問い合わせください。


 大ホールでの試聴の様子

 大ホールの客席側
 シーリング投光室をブリッジに
 して高い天井が確保されている


後半は施設見学に加えて、大ホールと小ホールのそれぞれでプロの演奏家によるピアノとチェロの演奏の試聴が行われました。

大ホールでは、低域までの反射音を得るために側壁の内装仕上げボードをコンクリート躯体に直貼りされたとのことで、それが響きに感じられるように思いました。また、空間を最大限に確保したことで得られた余裕ある響きを楽しみました。

 
2/25、彩の国さいたま芸術劇場の小ホールで、「舞台で活躍するピアノの魅力を探る」と題した舞台技術セミナーが行われました。


舞台 開演前の会場の様子


パネラーは国立音楽大学准教授の森太郎氏(楽器音響学、音楽音響学)、松尾楽器商会のコンサートチューナー外山洋司氏、ピアニストの仲道郁代さんと豪華メンバーです。

舞台にはピアノとスクリーンとパネラーの席が用意され、実際に音を出した実験を中心に解説が進められました。

最初に森氏が音と聴覚の基礎を解説されました。2つの音の周波数が微妙にずれていると生じる「うなり」や、音の高さによって聞き取れる最少の音の大きさが違うこと、ピアノの響板がどのくらい振動を音にして放射しやすいかなど、実際に音を出した実験を交えて解説されました。

次に外山氏がピアノの発音の仕組みと調律師が何を目指してどのようなことをしているかを、こちらも実演を交えて解説されました。特に興味深かったのは、ピアノは1音につき3本の弦が張ってありそれぞれを微妙に調整して音を豊かにしているという解説の際に、実際に各音の2本の弦をフェルトでダンピングして1音あたり1本の弦だけの状態にして、通常の状態と仲道さんの演奏で聴き比べしたことです。こんなことまず経験できません。その差は想像どおり、音が単純になってつまらなくなってしまいました。


外山氏の実演 外山氏が2本の弦を
 ダンピングしている様子


また、曲によってそれぞれの音が弾かれる回数が大きく違うので音によってハンマーの硬くなり方が全く違ってしまう、とか、室温の変化によって調律がずれるが音の高さによって狂い方が違う、とか、キャスターの向きによって響板の反りが変わって音が変わる、とか、ピアノの足を置く位置で音が変わる、など勉強になる話題が沢山紹介されました。

森氏と外山氏の解説中、なにかあると仲道さんがコメントをされました。例えば、ピアニストのタッチに合わせてピアノを調律するのは好まない、楽器としてニュートラルであるのが良い、など。

仲道さんはお淑やかなお顔と穏やかな話し方とは裏腹にピアニストの熱い思いを各所で述べられました。なかでも強く印象に残ったのは、ピアノは他の楽器と異なり会場のピアノを使用し、かつ演奏者ではピッチやハンマーの硬さなど楽器の状態を調整できないので、限られた演奏技術を駆使して楽器の状態を克服しつつ音楽的・芸術的表現を行っている、というコメントでした。だから、是非ピアノを良い状態に保つ努力をしてほしい、と。「良いピアノと状態の良いピアノは違う」と仲道さんが強く述べられていたのが印象的でした。

仲道さんの実演 ピアノを弾きながら
 熱く語る仲道さん


ちなみに同劇場のピアノは開館から20年の間に2回オーバーホールをしているそうですが、プロのコンサートやレコーディングに全く問題なく使われているそうです。外山氏は、ピアノの正常な状態を知っていれば問題点は見ただけでも分かります、と言われました。知識の習得と適切なメンテナンスが大切だという、当たり前のことが重要なのです。

さいたま芸術劇場では、いわゆる劇場法制定を受けて、このようなセミナー等を今後も開催していく予定とのことです。
 
700MHz利用推進協会、特ラ連、舞台音響家協会主催の新周波数に対応したワイヤレスマイク(特定ラジオマイク)のテスト会が2/18に北とぴあで開催されました。

A型ワイヤレスマイクの周波数移行はPA関連業務の方にはとても大きな問題です。570名もの方が来場され、各社の説明とデモを熱心に聞いていました。


会場の様子









 多くの参加者が来場した
 会場の様子


今回テストが行われたメーカと機種は以下の通りです。
(D:デジタル式、A:アナログ式、WS:ホワイトスペース+710〜714MHz帯)

 1)SENNHEISER: D9000シリーズ(D、WS帯)
           5000シリーズ(A、WS帯)
 2)SONY:     DWXシリーズ(D、WS帯+1.2GHz帯)
 3)beyerdynamic: TG1000シリーズ(D、WS帯)
 4)Panasonic:   DWMシリーズ(D、1.2GHz帯)
 5)SHURE:    ATXシリーズ(A、WS帯)
           UHF-Rシリーズ(A、WS帯)
           ULX-Dシリーズ(D、WS帯)
 6)LECTROSONICS:SM/HHシリーズ(D、WS帯)

新しいところでは、SONYは4モデルでWS帯と1.2GHz帯を全てカバーするラインナップを揃えたこと、beyerdynamicは送信機・受信機ともに1モデルでWS帯をカバーできること(他メーカ製品はいくつかのモデルでWS帯をカバーしている)、Panasonicは日本全国で使える1.2GHz帯のみを対象とした点、LECTROSONICSが加わった、などが挙げられます。


機材









 花道に並べられた
 各社のワイヤレス受信機


音質テストはなんと、男性・女性ボーカルの声と歌とタンバリン等の楽器を、有線マイクをリファレンスにしてワイヤレスマイクと交互に持ち替えるというシビアなものでした。
また、多チャンネル運用のテストはコーラス隊32人(一部16人)がそれぞれマイクをつけて歌いながら舞台・客席をバラバラに動き回るというものでした。
こんなデモはふつうできません。こんな機会だからできた貴重なテストだったと思います。


テストの様子








 男性・女性ボーカルと
 楽器によるリファレンス
 マイクとの比較テストの様子


それにしてもワイヤレスマイクと有線マイクの音質の違いが以前に比べたらだいぶ少なくなってきたのに驚きました。デジタルとアナログの違いも好みの範疇と言えるでしょう。電波の直進性が強く受信の不安定性が心配されている1.2GHz帯の機種ですが、テスト会では特にWS帯との差を感じませんでした。

最後に会場から質問で「WS帯で使用する周波数が例えば3モデルに渡る場合、機器負担してもらえるのは送信機は3台だがマイクヘッドやバッテリーは1台になると聞いた。しかし、マイクヘッドは頻繁に付け替えるように想定されておらず、故障や劣化の原因となる。これでは移行前と同様の使用状況を確保にはならないのでは?マイクヘッドも3台分負担してもらえないか」というのが出されました。ワイヤレスマイクのメーカの方も、マイクヘッドの頻繁な交換は劣化、故障の原因となるので勧められないとコメントしましたが、700MHz利用推進協会の回答は「費用負担は流用できない機器のみで、流用できる付属品は1台分のみの負担という原則の通り。マイクヘッドは流用可能な付属品と考える」というものでした。その場では更なる議論には至りませんでしたが、安全に利用できるようにしたいという利用者の意向を汲んでもらえるように期待したいと思います。

700MHz利用推進協会のHPに2月に行われた4回のテスト会のアンケート集計結果が載っていますが、そのページの本文に「アンケート結果を次のテスト会に活かします」とあるので、今後も開催されそうです。