日本建築学会が2008年に策定した「学校施設の音環境保全規準・設計指針」の改定版が6月に発行されました。

 

AIJES表紙 日本建築学会環境基準

 AIJES-S0001-2020

 表紙
 

今回の改定では、音響性能の推奨値については初版から変更ありません。

主な変更点は以下の通りです。

 

保育施設の音環境に対する規準の追加(乳幼児の保育室や学童保育施設を含む)

木造校舎に関する設計指針の追加

鉄骨造校舎に関する設計指針の追加

特別な支援を必要とする子どもの学習環境に関する設計指針の追加

乳幼児の保育空間に関する設計指針の追加

 

初版では小学校、中学校、高等学校を対象としていましたが、最近の社会情勢を反映して、乳幼児の保育や学童保育などにも対象範囲が広がっています。また、木造と鉄骨造を追加し、最近の学校建築の動向も反映した内容となっています。

 

その他、細かいところで情報の追加や見直し、最新規格への対応などが盛り込まれています。

 

電気音響設備に関する変更点は以下通りです。

 

マイクロホン毎の音質補正が可能なシステムを推奨

(ハンドマイクとタイピンマイクを個別にゲイン・音質調整できるように)

・動作特性の測定法として、劇場演出空間技術協会編「劇場等演出空間における電気音響設備動作特性の測定方法 JATET-S-6010:2016」を参照

・標準的なシステム構成例にエアモニターマイクを追加

 

 

と、ここでちょっと話が脱線(でも私的には超重要)しますが...

 

上記のなかで、マイクロホン毎のイコライジングはとても重要なポイントです。

 

例えばワイヤレスマイクのハンドマイクとタイピンマイクでは、構造も感度も口元からの距離も全く異なるので、個別に調整が必要になることは容易に理解できます。

 

ですが、学校等を対象にした業務用オーディオミキサーでこれが可能な製品はほとんどありません。理由は「利用者(先生や生徒)が使えないから」のようですが、納入業者がハウリングや音質に対して適切に調整して納入すれば、利用者が調整をする必要はありません。それなのにマイク毎の調整機能が実装されないのは、実は「利用者」ではなく「現場に納入する業者」が調整・設定できないからだと思われます。

 

ここから、音響設備は明瞭な音を提供することが目的なのに、肝心の音のクオリティには無関心で(音が出ればOKと判断)、機器だけ納入して終わっている状況が目に浮かびます。学校等の音響設備のほとんどが、音に知識や技術力のない業者に発注されているという現実です。

 

納入業者の方々には、音にも意識を向けて頂き、音の知識や技術の向上に力を注いていただきたいと思います。

 

学校側は、機材だけではなく「よい音」を提供してくれるような納入業者を選定するようにして頂きたいと思います。

 

そして、機器メーカには、利用者(先生や生徒)よりも納入業者を客と見るのではなく、明瞭な音が提供できる機器を供給いただくとともに、良い音を実現するための機器の使い方や調整方法を納入業者に指導するようにして頂きたいと思います。

 

海外メーカには、自社製品によるシステムのクオリティを維持するために、メーカが行う研修などを受けて認可した業者にのみ、自社製品の施工を許可あるいは推奨しているメーカもあります。

販売先を広げて多売の可能性を維持しあとは納入業者まかせという思考ではなく、納入業者を限定しても共に自社製品が納入されたシステムのクオリティを高く維持し顧客満足度を高めることで販売と価格とブランド力の維持を図ることを重視する思考です。

日本のメーカは是非見習ってほしいものです。

 

また話が少し派生しますが、

 

学校等に納入されるワイヤレスマイク装置にはかならずハンドマイクとタイピンマイクがありますよね。だったら受信器に予めハンドマイク用とタイピンマイク用の基本的なゲイン・イコライザ・リミッタ設定などを組み込んで、現場に応じて選択可能なったらいいですよね。そうすれば、マイク入力にイコライザがなく古いアナログのオーディオミキサーでも、新しくても適応性のない選択式イコライザしかないデジタルのオーディオミキサーでも、ハンドとタイピンに適切な最低限の音質補正を受信機で設定できます。

 

加えてユーザーEQもあって、会場の音響特性に応じてハウリング制御用のノッチフィルタが入れられたりすれば、とりあえずオーディオミキサーを選ばずに適切な音質が提供できるはずです。昨今、DSPチップはとても安価だそうです。そんな気の利いた製品を出す国内メーカはないものだろうか。

 

もうひとつ。

 

オーディオミキサーとパワーアンプの間に音質補正用のシグナル・プロセッサが導入されているシステムの場合、プロセッサの入出力にワイヤレスマイク分の空きがあれば、それをマイク・イコライジングに活用することもできます。

ワイヤレスマイク受信機のラインレベル出力をプロセッサに通して必要なイコライジングをしてオーディオミキサーに入れる。やや荒業ではありますが、もともと多チャンネルのプロセッサを入れる予定であれば、マイク本数分の入出力を追加することでコストアップも低く抑えられるかと思います。

 

と、気が付けば脱線話の方が長くなってしまいましたが、それくらいマイク毎のイコライジングが重要ってことでご容赦ください。

その重要なことが学会の規準・設計指針に書かれているわけですから、国内メーカ、納入業者、設計者の皆さん、それぞれの立場で考慮して頂きたいです。

 

子どもたちが良い音環境で学習活動ができるように、日本建築学会の学校施設の音環境保全規準・設計指針の改定版、是非、購入して設計に生かしてください。

 

※関連記事「学校体育館の拡声の現状」はこちら

※学校施設の音環境保全規準・設計指針 2008年の初版に関する記事はこちら

 

 

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