7/30に新国立劇場の中劇場にて行われた「舞台技術運用セミナー2013」に参加しました。
(主催:新国立劇場、協力:公共劇場技術者連絡会、劇場演出空間技術協会、日本舞台音響家協会)

会場の様子 会場の様子

■第1部「ポイントソーススピーカとラインアレイスピーカ」

第1部ではポイントソーススピーカとラインアレイスピーカについて、特徴の解説と聴き比べが行われました。進行は渡邉邦男氏(新国立劇場技術部音響課長)、解説は丹尾隆広氏(ATL)です。

聴き比べの最初は、舞台中央のバトンに吊り下げたポイントソーススピーカ(UPQ-1P×1台)とラインアレイスピーカ(MINA×8台)の違い。ともに客席の同じ範囲をカバーするようにセットされています。

試聴1

ポイントソースは聴き慣れた音と響きで、音の距離感も視覚と一致して感じます。カバーエリア内での音質の変化が少なく、カバーエリア外の減衰もスムーズに感じます。

ラインアレイはやはりカバーエリア内のスピーカから最も遠い席で一番いい音に感じます。複数のスピーカユニットからの音のズレが最少になるからでしょう。低音の音量感がポイントソースよりずっと良いのですが、ウーハーの台数が多いことを考えると当然でしょう。聴く位置による音質の変化は大きく感じますが、響きが少なく、遠方では視覚的な距離以上に音が近く感じます。

次に、スピーカユニットのサイズによる違いをポイントソースとラインアレイで聴き比べました。
 ポイントソース(写真手前。サブウーハは未使用)
 大型:UPQ-1P(15inch)、中型:UPA-1P(12inch)、小型:UPJ-1P(10inch)
 ラインアレイ(写真奥)
 大型:MILO(2×12inch)、中型:MICA(2×10inch)、小型:Melodie(2×8inch)

試聴2 

ポイントソース、ラインアレイともに小型のスピーカほど低音の出を感じます。小型スピーカは少ない台数で使われることが多いので低音を出し気味にしておいてちょうど良いのでしょう。

こうやって試聴すると、それぞれのスピーカには特徴があり、会場や用途に応じて最適なスピーカをチョイスすることの重要性を改めて感じます。

■第2部「幕類の音への影響」

第2部では、舞台でよく使われる様々な種類の幕や布が音をどの程度透過するか検証実験が行われました。これはホリや幕類の裏にスピーカを仕込まなくてはならなかったり、スピーカを布などで隠す必要があることが良くあることから取り上げられたとのことで、とても興味深い実験でした。進行は渡邉氏で、解説は稲生眞氏(永田音響設計)がされました。

スピーカの前に下記の幕や布を垂らした前後で音を試聴するとともに、SIMにより周波数特性も比較できるようになっていました。

試験体:ビニホリ(ゲレッツ・オペラPVC)、大黒・袖幕(ゲレッツ・スーパーサージ)、紗幕、フェルト袖幕(厚さ1mm以下)、ジョーゼット、Pシルク、シーチング、葛城、11号帆布、ドングロス、貫八別珍、毛氈ネル、毛氈フェルト、ベルベット(レーヨン)、ターポリン

ビニホリなし







 分かりにくいですが、スクリー
 ンの左側にスピーカが設置され
 ています。
 ビニホリを垂らす前。

ビニホリあり






 スピーカ前にビニホリを垂らし
 た状態。
 スクリーン上段のグラフが周波
 数特性(緑がホリ設置前、白が
 設置後)

大幅に音が遮られたのはビニルコーティングされたビニホリとターポリン、および厚手で目の詰まった11号帆布や貫八別珍やベルベットで、高音域で10dB以上も減衰がありました。
その次はスーパーサージと葛城で、5〜8dB程度の減衰が見られました。

ほとんど影響がなかったのは紗幕とドングロス(麻布)ですが、どちらも透けるので実用には難しそうです。

影響はあるが程度が少なかったのはフェルト、ジョーゼット、Pシルク、シーチング、毛氈ネル、毛氈フェルトでした。音の減衰は1〜5dB程度です。Pシルクとシーチングは薄さの割には影響が大きく感じられました。薄くても目が細かく詰まっているのが原因と思われます。

セミナーではフェルトが、レベル低下は2dB程度ありますが音質の変化が少なく、透けないでコストも安いので好印象でした。ただし段々に生地が伸びてくるので消耗品として考える必要があります。
※ここでのフェルトは手芸用の厚手のものではなく、1mm以下の薄手のものです。

なお、上記の実験はいずれの幕、布もひだなしの状態で行っていましたが、フェルト袖幕のみひだの有無による差を検証しました。その結果、ひだをつけることで8kHz付近の減衰が少し大きくなりましたが、それ以外に全体的には大きな差はありませんでした。ひだを付けたことで部分的に見かけの厚みが増え、その厚みに関係する周波数付近の減衰が多くなるのだと思われます。

■第3部その1「FIRフィルタを活用した音場制御」

最近一部の音響機器に取り入れられているFIRフィルタを利用したイコライザの特徴と活用例が紹介されました。FIRフィルタは位相特性の変化がほとんど無く、複雑なフィルタも実現できるのが特徴です。ただしその操作は従来とは大きく違います。
進行は石丸耕一氏(東京芸術劇場)、解説は井澤元男氏(EVIオーディオ)と兼子紳一郎氏(ヤマハサウンドシステム)。

まずは、スピーカのクロスオーバーやホーンEQといったスピーカプロセッシングが従来のIIRフィルタに加えてFIRフィルタでも提供されているElectro-VoiceのラインアレイXLC-DVXで、IIRとFIRのプロセッシングを聴き比べました。

たしかにFIRでは音の解像度や分離が良くなった感じがありましたが、その一方で不自然さを感じる面もあったのが個人的に正直な印象です。

次に、FIRフィルタをルームイコライザとして使用するHYFAX AMQ2の紹介と活用例のデモがありました。AMQ2は現場に設置されたスピーカの再生周波数特性を測定し、それを目標特性(例えば、あらかじめ無響室などで測定したスピーカの素の再生周波数特性)と比較し、差分から逆特性となるFIRフィルタを作成し、音を補正するものです。

プラネタリウムなどでドーム状有孔スクリーン背後に設置されたスピーカの補正や、劇場等でスピーカ前面に化粧桟があるような場合の補正に有効で、従来よりきめ細かい補正ができるとのことです。

デモでは、第2部で取り上げられたように、ビニホリや大黒幕などの背後にスピーカを設置しなくてはならない場合を想定して、幕による音への影響をFIRフィルタで補正することが行われました。
スピーカ前にホリを降ろした後でFIRフィルタによる補正をONするとホリで遮られた中〜高音が回復し影響がだいぶ補正されました。でも、幕裏ではすごい音になっています。
幕1枚あたり20分程度の測定時間で済んだとのことで、音作りの時間の短縮も期待できるとのことです。

AMQ2は、何を目標性能とするのか、と、現場測定のポイントをどこにするかを決めるのが難しい点でしょう。また、現状ではメーカの技術者しか測定調整ができないのも課題で、誰でも操作できるようにしてほしいと石丸氏がコメントしていました。

■第3部その2「新発想の小型スピーカ」

最後は渡邉氏の進行、長谷部友洋氏(ライブギア)の解説で、k-array社のロープ状スピーカ(アナコンダ)や500mmスティック状スピーカなど変わり種スピーカの紹介とデモがありました。

 スティックスピーカ
 舞台上に配置したロープ状スピーカと    長さ500mmのスティック状スピーカ
 舞台下の低音用スピーカ

どちらもそうですが、特に500mmのスティック状スピーカは見た目以上にパワーが出るので驚きました。想像以上に様々な場所に使えそうです。


このように内容盛り沢山のセミナーでした。興味を持たれた方は是非来年ご参加ください。(ただし来年のテーマが音響とは限りません)
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