9/20、日本音響家協会東日本支部主催の第4回ネットワークセミナーにパネラーとして参加しました。このセミナーは劇場やホールにおけるネットワークを取り上げたもので、4回目の今回は無線LANを切り口として3部構成で行われました。

SEASパンフ 

■第1部:改修が終わった東京芸術劇場のネットワーク構築の事例紹介

第1部では、まず、昨年夏に大規模改修を終えた東京芸術劇場の全館ネットワークの基本構想について石丸氏(東京芸術劇場)から、その具体的な実現方法について多和氏(日本電気)から紹介がありました。

同劇場では改修にあたり、施設利用予約や備品貸出管理などの事務用、海外のスタッフとテレビ電話しながら舞台制作を進めたりする際などの利用者用、設備の遠隔管理などの制御用、将来のコンテンツ配信等に備えた信号用という用途を想定し、4系統の全館ネットワークを整備してそれを実現されたとのことでした。

それに加えてホール毎にクローズした舞台機構・舞台照明・舞台音響設備用のネットワークが並存し、機器のリモート監視や操作、管理に活用されているそうです。

音響設備でのネットワーク活用としては、新たに音響工房を設け、サーバーに効果音などの各種素材を保管管理し、各ホールをはじめ必要各所から素材のピックアップなどができるようにされたそうです。

いずれの用途も劇場運営にネットワークの利点が活かされていると感じます。これは劇場を長年運用してこられた方々の意見を元に積み上げる改修のメリットといえるでしょう。運用者がどのような事がしたいかが設計時に明確だった事がとてもよく表れていると感じました。

技術面での特徴は、バーチャルLAN(物理的に1系統のネットワーク内に仮想的に複数のネットワークを構築する)により費用対効果を上げているとのことでした。

幹線は光ファイバーで、末端の必要個所に無線アクセスポイントを設置し無線化しているそうです。無線LANのチャンネルは2.4GHz帯と5GHz帯をすべて使って全体でプランニングされていました。

また、劇場のように多くの方が入れ替わり利用する場合、ネットワークのパスワードの変更・管理が重要との話に納得しました。同劇場では公演毎にパスワードを変更してセキュリティを確保しているそうです。業務的には意外に大変そうですので、忘れずにシステム化しておくべきと感じました。

これらの話を聞いて、これまで私は音響設備のネットワークだけしか考えてきませんでしたが、もはやネットワークは劇場運用に大きく関わる施設全体のインフラとして考える必要があると痛感しました。
今後の施設設計において、ネットワーク専門の設計担当者が必要であるとの石丸氏の発言にとても納得しました。

SEASセミナー風景










 セミナー会場の様子

■第2部:ネットワーク/無線LANに関する施設設計・施工事例と製品の紹介

第2部では設計・施工者4者から事例紹介が、メーカ6者から製品紹介がありました。

私はコンサルタントの立場から自身の方針として、舞台音響設備における無線LAN機器の設計について、「基本的に有線LANでネットワークを構築し、無線LANは二次的、補助的に使用できるようにしている」ことを紹介しました。

具体的にはつぎのようなことです。
(1)ミキサーやプロセッサ機器のリモートコントロールなどは有線LANをまず構築し、その上で無線LANでも使用可能とする。
(2)インカムは必ず有線インカムとの併用とし、ワイヤレスインカムのみのシステムにはしない。
(3)2.4GHz帯のワイヤレスマイクは原則採用しない。

理由として以下の説明をしました。
(1)電波である以上、かつ無線LANの規格上も、通信安定性は保証されない。
(2)2.4GHz帯では干渉なく同時使用できるチャンネル数が3つしかなく、かつ混雑している。
(3)大型会議等では観客用のインターネット接続用無線LANが要求され優先される。
(4)デモ時には問題なくても本番になるとトラブルが起こるケースが多い。

以上を見ると否定的な印象を持たれるかもしれませんが、私は決して無線LANを否定している訳ではありません。とても便利なことは重々理解しています。ただ、その利便性を適切に活用し、重大なトラブルを回避するためにも、システムの問題点や限界も十分に理解しておくべきということです。

■第3部:メーカ・代理店、設計・施工者、ユーザーの3分野の方々による座談会

第3部は、第1〜2部のパネラーにホール技術スタッフやサウンドチューナーの方々が加わり、更に日本音響家協会の北海道支部ともSkypeで繋いで座談会形式で進行されました。

ホール技術スタッフの方からは、同じ建物内でホールに近接する他施設からの無線LAN電波や隣接する鉄道駅からの電波などによって舞台照明のワイヤレス操作に影響を受けた例などが紹介されました。無線方式を2.4GHz帯から旧式のラジコン用電波帯に変更して対策した例の報告もあり参考になりました。

サウンドチューナーの方からは、客席で音を聴きながらスピーカのチューニングをするのに無線LANでのプロセッサ遠隔操作は欠かせないが、2.4GHz帯は混雑で使いものにならないので5GHz帯を使用していること、ただし本番は有線LANしかもバーチャルLANでなく専用線という責任もてる回線を使用しているとの発言がありました。「責任もてる回線」という表現に納得しました。

また、最近ではWiFi内蔵PC+アプリや専用機器で電波状況を簡単に調べることができます。実際にホールや屋外イベント会場でのWiFi電波状況を調べた結果が紹介されましたが、どれも2.4GHz帯は壊滅的な混雑状況でした。

このような状況を北海道支部に問いかけたところ、北海道ではそのような混雑状況はないとの返答でした。2.4GHz帯のワイヤレスマイクについても特に問題になっていないようで、無線LANの状況は地域や場所による違いが大きい事を気づかされました。

***

このように長時間に渡りましたが、大変内容の濃いセミナーでした。私自身も勉強になりました。
施設計画においてネットワークはもはやいち設備の範疇ではなく施設全体のインフラとして考えるべきと言ったのと同様に、このようなソフト面も含めた問題や情報交換も舞台音響、照明、機構さらには企画や管理といった様々な立場の方々の部門を超えたコミュニケーションが重要であることを実感しました。

日本音響家協会のHPに本セミナーの報告が掲載されていて、今回のセミナーの録画も見られるようですので、興味ある方はチェックしてみてください。

日本音響家協会 関連ページ
http://seas.or.jp/news/various.html#anchor2013_9_20

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