今年のゴールデンウィークに音響設計を担当したライブホール「仙台ギグス」がオープンしました。仙台ギグスはスタンディングで最大1,560名、着席で最大816席と東北最大級となるライブホールで、仙台駅から市営地下鉄東西線で約15分の東の終点 荒井駅から徒歩1分の場所にあります。

 

 仙台ギグスの外観
 

仙台ギグスの音響設計コンセプト「リアクション

 

ポピュラー音楽を主体とするライブホールやライブハウスの多くは、響きを含む音響効果はサウンドシステムで創るのでホールの響きは無い方が良いという考え方が一般的で、壁や天井が全面的に吸音処理されています。サウンドシステムの音質を劣化させる余計な反射音や残響音を抑制するためにも吸音が必要なことは確かです。

 

しかしライブではサウンドシステムを通らない音も重要ではないでしょうか。それは、観客の歓声や拍手。ライブならではの音です。歓声や拍手が湧き上がるように大きく響けばアーティストも観客も盛り上がります。自分たちのパフォーマンスに対する観客の反応が大きく感じられれば、それはアーティストのエネルギーとなってさらに素晴らしいパフォーマンスを引き出し、より大きな感動へとつながる事でしょう。これは多くのライブ・ファンに共感頂けることと思います。

 

 レセプションパーティの様子

仙台ギグスでは、そんなライブのもう一つの重要な音を吸音してしまうのではなく、積極的にステージ上のアーティストに届けようと考えました。もちろんサウンドシステムの音を阻害する反射音は低減しながらです。

 

その一見矛盾することの解決を試みたのが側壁の屏風折れのパネルです。パネルの舞台側の面は吸音仕上げにして舞台両脇のスピーカからの音は吸音し、客席側の面を反射仕上げにして観客の歓声や拍手を舞台へ向けて反射させるようにしました。

 

 1階席からの内観
 

加えて、天井面も客席からステージへ音を届かせるのに有効な範囲は反射性とし、それ以外の部分で吸音しています。

 

結果として仙台ギグスは他のライブホールよりも響きがやや長めになっています。といっても客入り後には気付かない程度です。

この適度な響きは生音と同様にサウンドシステムの音も豊かにし、音量感をアップする効果も得られます。直接音を邪魔しないようにコントロールすることで、響きをサウンドシステムにもプラスになるようにしました。

 

また、アーティストにとっても、自分の歌声や演奏音が会場の奥まで届いているという手ごたえが感じられやすく、安心できるのではないかと思います。

 

 2階席から舞台を臨む
 

その他にも次のような音響的配慮をしています。

 

・反射面で響きを残す一方で、スピーカの音を受け止める後壁面は30cm厚の吸音面を設けて低音までしっかりと吸音を図りました。

 

・側壁の屏風折れによって側壁間の平行を崩し、天井を屋根勾配に合せて傾斜させることで床〜天井間の平行を崩し、定在波の低減を図りました。

 

・パフォーマンスに対して音量制限を不要とするために徹底した防音対策を行いました。

 

このように仙台ギグスでは、サウンドシステムへの配慮はもちろん、観客と会場の「リアクション」にも着目しアーティストとオーディエンスが共に盛り上がれる音響空間を目指しました。

 

 1階後方のPAブースと後壁
 

仙台ギグスのスピーカシステムには d&b audiotechnik社の大型ラインアレイに超大型サブウーハが採用されています。この超大型サブウーハが常設されるのは仙台ギグスが最初のホールとのことで、このシステムも必聴ものです。

 

夏以降、様々なアーティストのライブがブッキングされ始めてきました。これから多くのパフォーマンスが繰り広げられ、アーティストやオーディエンスが仙台ギグスをどんな風に感じるのか楽しみです。

 

最後に、全国各地の大型ライブホールが東京などの大手企業資本なのに対して、仙台ギグスは”地元資本”であることをお知らせしたく思います。そんなライブホール「仙台ギグス」が多くのアーティストとオーディエンスそして地元の方々に愛される施設になることを心より願っています。

 

仙台ギグス

https://www.sendaigigs.com/

 

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