3/19に行われた日本音響学会の建築音響研究会(3月度)に出席して発表をしてきました。

会場は2012年8月オープンした静岡市清水文化会館「マリナート」です。
(PFI事業。建築設計:槇総合計画事務所+大成建設、音響設計:ヤマハ)

私はマリナートのとなりにある清水テルサ(2000年完成)を担当していましたが、当時は清水駅の東側に出口はありませんでした。様子が一変しているのに驚きました。

 会場の静岡市清水文化会館
 「マリナート」


前半は小ホールにて以下の発表がありました。

・スピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について/内田匡哉(内田音響設計室)
・拡散音場は存在するか?/久野和宏
・NC曲線の拡張利用に関する検討/川上福司(Sound Concierge),寺園信一(アコー)
・静岡市清水文化会館マリナート −文化によるまちづくり−/福永知義(槇総合計画事務所)
・静岡市清水文化会館マリナートの音響設計/宮崎秀生(ヤマハ)


 研究発表の会場となった
 小ホール


研究発表のトップバッターは私でした。発表内容の概要は以下のとおりです。

「スピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について」

ホールや劇場に音響設備のスピーカが設置される場合、その多くは建築意匠と一体となるように内装仕上げの中に設置され、前面には化粧パネル等が取り付けられます。建築意匠的には当然のことであり理解しますが、その状況によってはスピーカの再生音質に大きく影響を与えることがあります。これらは頻繁に経験することですが、その影響をデータとして示した例は多くありません。そこでスピーカの設置状況が再生周波数特性に与える影響について、いくつかの実ホールでの測定結果を紹介しました。

また、そのような周波数特性への影響はイコライザ装置によって電気的に除去できると思われがちですが、実際には影響を除去することはできません。なぜならイコライザによる音響調整は元信号に対して施すもので、影響によるレベル増加(あるいは低減)を考慮して予め元信号を低下(あるいは増加)しているからです。

つまりスピーカの設置環境によって生じた影響は電気的には除去できずに必ず残ります。よってスピーカの設置場所に対する建築面での音響的配慮が基本的なスピーカの再生音質を左右すると言えるので、十分な配慮が必要です。

というものです。興味のある方は資料がありますのでお問い合わせください。


 大ホールでの試聴の様子

 大ホールの客席側
 シーリング投光室をブリッジに
 して高い天井が確保されている


後半は施設見学に加えて、大ホールと小ホールのそれぞれでプロの演奏家によるピアノとチェロの演奏の試聴が行われました。

大ホールでは、低域までの反射音を得るために側壁の内装仕上げボードをコンクリート躯体に直貼りされたとのことで、それが響きに感じられるように思いました。また、空間を最大限に確保したことで得られた余裕ある響きを楽しみました。

 
2/25、彩の国さいたま芸術劇場の小ホールで、「舞台で活躍するピアノの魅力を探る」と題した舞台技術セミナーが行われました。


舞台 開演前の会場の様子


パネラーは国立音楽大学准教授の森太郎氏(楽器音響学、音楽音響学)、松尾楽器商会のコンサートチューナー外山洋司氏、ピアニストの仲道郁代さんと豪華メンバーです。

舞台にはピアノとスクリーンとパネラーの席が用意され、実際に音を出した実験を中心に解説が進められました。

最初に森氏が音と聴覚の基礎を解説されました。2つの音の周波数が微妙にずれていると生じる「うなり」や、音の高さによって聞き取れる最少の音の大きさが違うこと、ピアノの響板がどのくらい振動を音にして放射しやすいかなど、実際に音を出した実験を交えて解説されました。

次に外山氏がピアノの発音の仕組みと調律師が何を目指してどのようなことをしているかを、こちらも実演を交えて解説されました。特に興味深かったのは、ピアノは1音につき3本の弦が張ってありそれぞれを微妙に調整して音を豊かにしているという解説の際に、実際に各音の2本の弦をフェルトでダンピングして1音あたり1本の弦だけの状態にして、通常の状態と仲道さんの演奏で聴き比べしたことです。こんなことまず経験できません。その差は想像どおり、音が単純になってつまらなくなってしまいました。


外山氏の実演 外山氏が2本の弦を
 ダンピングしている様子


また、曲によってそれぞれの音が弾かれる回数が大きく違うので音によってハンマーの硬くなり方が全く違ってしまう、とか、室温の変化によって調律がずれるが音の高さによって狂い方が違う、とか、キャスターの向きによって響板の反りが変わって音が変わる、とか、ピアノの足を置く位置で音が変わる、など勉強になる話題が沢山紹介されました。

森氏と外山氏の解説中、なにかあると仲道さんがコメントをされました。例えば、ピアニストのタッチに合わせてピアノを調律するのは好まない、楽器としてニュートラルであるのが良い、など。

仲道さんはお淑やかなお顔と穏やかな話し方とは裏腹にピアニストの熱い思いを各所で述べられました。なかでも強く印象に残ったのは、ピアノは他の楽器と異なり会場のピアノを使用し、かつ演奏者ではピッチやハンマーの硬さなど楽器の状態を調整できないので、限られた演奏技術を駆使して楽器の状態を克服しつつ音楽的・芸術的表現を行っている、というコメントでした。だから、是非ピアノを良い状態に保つ努力をしてほしい、と。「良いピアノと状態の良いピアノは違う」と仲道さんが強く述べられていたのが印象的でした。

仲道さんの実演 ピアノを弾きながら
 熱く語る仲道さん


ちなみに同劇場のピアノは開館から20年の間に2回オーバーホールをしているそうですが、プロのコンサートやレコーディングに全く問題なく使われているそうです。外山氏は、ピアノの正常な状態を知っていれば問題点は見ただけでも分かります、と言われました。知識の習得と適切なメンテナンスが大切だという、当たり前のことが重要なのです。

さいたま芸術劇場では、いわゆる劇場法制定を受けて、このようなセミナー等を今後も開催していく予定とのことです。
 
700MHz利用推進協会、特ラ連、舞台音響家協会主催の新周波数に対応したワイヤレスマイク(特定ラジオマイク)のテスト会が2/18に北とぴあで開催されました。

A型ワイヤレスマイクの周波数移行はPA関連業務の方にはとても大きな問題です。570名もの方が来場され、各社の説明とデモを熱心に聞いていました。


会場の様子









 多くの参加者が来場した
 会場の様子


今回テストが行われたメーカと機種は以下の通りです。
(D:デジタル式、A:アナログ式、WS:ホワイトスペース+710〜714MHz帯)

 1)SENNHEISER: D9000シリーズ(D、WS帯)
           5000シリーズ(A、WS帯)
 2)SONY:     DWXシリーズ(D、WS帯+1.2GHz帯)
 3)beyerdynamic: TG1000シリーズ(D、WS帯)
 4)Panasonic:   DWMシリーズ(D、1.2GHz帯)
 5)SHURE:    ATXシリーズ(A、WS帯)
           UHF-Rシリーズ(A、WS帯)
           ULX-Dシリーズ(D、WS帯)
 6)LECTROSONICS:SM/HHシリーズ(D、WS帯)

新しいところでは、SONYは4モデルでWS帯と1.2GHz帯を全てカバーするラインナップを揃えたこと、beyerdynamicは送信機・受信機ともに1モデルでWS帯をカバーできること(他メーカ製品はいくつかのモデルでWS帯をカバーしている)、Panasonicは日本全国で使える1.2GHz帯のみを対象とした点、LECTROSONICSが加わった、などが挙げられます。


機材









 花道に並べられた
 各社のワイヤレス受信機


音質テストはなんと、男性・女性ボーカルの声と歌とタンバリン等の楽器を、有線マイクをリファレンスにしてワイヤレスマイクと交互に持ち替えるというシビアなものでした。
また、多チャンネル運用のテストはコーラス隊32人(一部16人)がそれぞれマイクをつけて歌いながら舞台・客席をバラバラに動き回るというものでした。
こんなデモはふつうできません。こんな機会だからできた貴重なテストだったと思います。


テストの様子








 男性・女性ボーカルと
 楽器によるリファレンス
 マイクとの比較テストの様子


それにしてもワイヤレスマイクと有線マイクの音質の違いが以前に比べたらだいぶ少なくなってきたのに驚きました。デジタルとアナログの違いも好みの範疇と言えるでしょう。電波の直進性が強く受信の不安定性が心配されている1.2GHz帯の機種ですが、テスト会では特にWS帯との差を感じませんでした。

最後に会場から質問で「WS帯で使用する周波数が例えば3モデルに渡る場合、機器負担してもらえるのは送信機は3台だがマイクヘッドやバッテリーは1台になると聞いた。しかし、マイクヘッドは頻繁に付け替えるように想定されておらず、故障や劣化の原因となる。これでは移行前と同様の使用状況を確保にはならないのでは?マイクヘッドも3台分負担してもらえないか」というのが出されました。ワイヤレスマイクのメーカの方も、マイクヘッドの頻繁な交換は劣化、故障の原因となるので勧められないとコメントしましたが、700MHz利用推進協会の回答は「費用負担は流用できない機器のみで、流用できる付属品は1台分のみの負担という原則の通り。マイクヘッドは流用可能な付属品と考える」というものでした。その場では更なる議論には至りませんでしたが、安全に利用できるようにしたいという利用者の意向を汲んでもらえるように期待したいと思います。

700MHz利用推進協会のHPに2月に行われた4回のテスト会のアンケート集計結果が載っていますが、そのページの本文に「アンケート結果を次のテスト会に活かします」とあるので、今後も開催されそうです。

 
1月28日〜29日に山形市民会館で開催されたFBSR会音響技術研修会に今年も参加しました。

毎年面白いネーミングのテーマですが、今年は「音響空間物語〜モノ(モノラル)からものがたり(空間創造)へ〜」というもので、音響空間が取り上げられました。

仮設音響反射板
 2日目の仮設音響反射板での実験の様子

PAも録音もモノラルから始まり、ステレオ、サラウンドと段々に音響空間を取り込み、表現しようと発展してきました。その歴史を尚美ミュージックカレッジの半田先生が、興味深いエピソードと貴重な音源の数々を織り交ぜて解説されました。

1日目はその他に、単に周波数特性をフラットにするのでなく感覚的な重みづけを考慮したスピーカチューニング法の紹介や、会場のプアーな音響をディレイスピーカを使って補強する実験などが行われました。

小ホール
 小ホールの様子。小ホールにはSSL、STUDER、DIGICO、ROLANDの
 録音ミキサーが集まりました。

2日目の最初はピアノ演奏を例に、会場の音響を建築的に改善していく方法の実験です。
ピアノを舞台幕の状態で演奏するところから、以下の様々な方法を追加していきました。
 1)舞台幕の状態
 2)仮設音響反射板を設置(Wenger社)
 3)脇花道の鳥屋口に反射板(衝立)を設置(ピアノに音を返すように)
 4)客席階段の蹴上を反射性に(板を立てかけた)
 5)仮設音響反射板をピアノから離す

いずれも薄会長が喜多方プラザの改修の際に実験、経験したものが元になっているそうです。2)でピアノの音量がUPしましたが、演奏者は客席の響きが聞こえやすくなり時に演奏しにくくなることもあるとのことでした。そこで3)は遅れ時間の短い反射音を追加したのです。モニタースピーカで音を返すのと同じ効果でピアニストは弾きやすくなったとコメントしました。PA技術者ならではの着眼点だなと感心しました。さらに4)は客席からの反射音をさらに追加しています。舞台から見ると階段の蹴上は合計すると見かけ上結構な面積になります。しかもピアノからの距離がバラバラなので単一エコーにならずに良い効果が得られます。ピアニストの方は音が気持ちよく聞こえるようになったとコメント。これにも感心させられました。日々現場にいる人ならではの発見だとつくづく思いました。

鳥屋口衝立
 鳥屋口に設置した衝立(赤丸)

客席階段蹴上反射





















 客席の階段蹴上に
 立てかけた板

また4)の実験の際にはその効果を実際に会場のインパルス応答を測定して比較しました。これは森本浪花音響計画の浪花さんと千葉さんが担当されました。インパルス応答波形や測定用の12面体スピーカになじみのない参加者の方は興味深く見ていました。

その他、ピアノと弦楽四重奏を対象に、ONマイクとOFFマイクでのPAの違いや、ディレイをかけた場合の演奏者の反応など、興味深い研修が行われました。

機材展示
 協力各社の機材展示の様子

毎年のことですが、本研修会は座学ではなく実際に音を聞く実験が中心の研修会で、とても興味深いです。しかもテーマがとても現場的で実践的なのが魅力です。また来年も参加したいと思います。
 
先日、とても久しぶりに信濃町教会を訪れました。
日本基督教団 信濃町教会(新宿区)は9年前に私が永田音響設計在職時に担当した教会です。

きっかけは、教会の方からヘッドウォーン・ワイヤレスマイクの修理に関して連絡があったことでした。せっかくご連絡を頂いたので、しばらくぶりにミサを見学させていただきました。

ヘッドウォーン(耳かけ式)マイクは、タイピンマイクがどうしてもハウリングしてしまうという教会の方からの相談に、私が提案したものでした。これはマイクを口元に近く配置できるのでハウリングに強く、安定して声を集音できるからです。海外では様々なシーンでよく使われていますが、日本ではあまり広まっていません。デモ機を試用して頂いたらとても好評で早速購入されました。

その後ずっと信濃町教会ではミサ中の聖餐の時にヘッドウォーンマイクを使っていて、とても良好だそうです。聖餐の時になると牧師が慣れた手つきでヘッドウォーンマイクを付けて、聖餐台のところに出てこられます。

教会では大きな聖書をめくるのに邪魔になるため、卓上マイクが口元から遠くなりがちです。また、響きの多い礼拝堂ではタイピンマイクを音量を上げて使用すると部屋の響きも拡声されてハウリングしやすくなります。そのような教会空間にヘッドウォーンマイクはとても有効です。耳にかけるのを煩わしがらずに、一度試してみてはいかがでしょうか。


信濃町教会










 調整室での操作の様子


この信濃町教会の新会堂は2004年9月に完成しました。設計は内井昭蔵+内井建築設計事務所、音響設計は永田音響設計です。

礼拝堂は八角形の平面形で3層吹き抜けの高さがあり、200席程の会衆席が正面の祭壇を囲むように円弧上に配置されています。会衆席の後方に、ライル兄弟オルガン製作所(オランダ)のパイプオルガン(15ストップ)を備えています。

写真のように礼拝堂の2階部分に礼拝堂を見渡せる調整室があります。他の教会ではあまり見かけない特徴でしょう。教会の方に、AV設備に詳しく、高齢化が進む中では音響設備が特に重要とお考えの方が居られたので、このようになりました。ここで音響設備とITVカメラ設備の操作が行えるようになっています。

メインスピーカはFPS製パイプラインスピーカ(専用サブウーハ付)で、祭壇の左右に設置されています。(写真で黒い棒状に見えているのがそれです。)

ミキサーはヤマハのデジタルミキサーDM1000です。見た目は操作が難しそうな印象を与えますが、信濃町教会ではミサの進行に合わせてマイクのON/OFFやレベルをシーンに記憶させ、それをユーザー・ディファイン・ボタンに割りてています。当番の方はミサの進行に合わせて順番にボタンを押してゆくだけで、簡単に音響の操作が行えるように工夫されています。デジタルミキサーならではの使い方です。

また、DM1000はポスプロを想定した機種と言えますが、その分、モニターセクションがきちんとしているので、調整室で操作する小規模な設備のミキサーにも使いやすいのです。

竣工から9年間、問題なく良好に稼働しているとのことで、教会の方から非常に満足しているとの言葉をいただき、とても嬉しく思いました。


ライルのパイプオルガンとFPSのスピーカの組み合わせは、奇遇にも私が一昨年から携わっている恵泉女学園大学のチャペルと同じなのです。何かの縁を感じずにはいられません。
 
700MHz利用推進協議会による「新周波数対応 特定ラジオマイクのテスト会」が来週11/21に浦安市民会館で開催されます。

この会は、各メーカーが発売する新周波数対応の機器を一堂に集め試聴出来る会で、新機器選定に役立てるために企画されたものです。

予約不要で無料とのことなので、興味ある方は参加されてはどうでしょうか。

来年2月にも東京、愛知、兵庫、福岡で開催されるそうです。

詳しくは下記リンクをご覧下さい。

http://www.700afp.jp/microphone.html#chap2
9/25〜27の3日間、豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市)において日本音響学会2013年秋季研究発表会が開催されました。

今回はスペシャルセッションとして「屋外拡声システムに関する研究の最近の動向」、「公共空間における音環境の実状と期待される性能」といった自分の業務に関連し興味深いテーマが取り上げられていたために、久しぶりに参加しました。

■屋外拡声システムに関する研究の最近の動向

音響学会01










 会場の様子

東日本大震災の際に、防災用屋外拡声システム(一般に防災無線と呼ばれる)がよく聞き取れなかったという指摘が多くあったことを受けて、総務省のもとで行われた改善に関する研究をはじめ、関連する7件の発表がありました。

屋外拡声システムの音声情報が聞き取りにくかった原因として、異なる位置に設置された複数のスピーカからの音声が到達時間差によってダブって聞こえることや、建物等での反射音の影響があると、多くの発表で報告されました。
そして、音のダブり(エコー)が音声の了解性に与える影響についての聴感実験や、屋外という長距離伝搬経路での音響伝達特性の測定方法の開発、屋外拡声システムの音声了解度評価法と有効な音響パラメータの検討、地形と気象を考慮した伝搬予測、コンピュータシミュレーションの開発、などの研究成果が発表されました。

しかし、音声を聞き取りにくくしているダブりを生じる最も大きい原因であるスピーカの配置計画そのものについては発表がありませんでした。コンピュータシミュレーションの発表の中でスピーカの拡声方向を変更した場合のケーススタディがありましたが、シミュレーションの有効性を示すに留まっていました。

現状の屋外拡声システムのスピーカはひとつのタワーに4つのスピーカが設置され四方に拡声するのが標準的とのことですが、これでは必ず音がダブるエリアが生じてしまいます。四方への拡声は火の見櫓で鐘を鳴らすのと同じで信号音では問題は少ないですが、音声ではダブりによる了解性の低下が生じます。

そこで、ダブりを生じさせない、もしくは最小限に抑えるスピーカの配置計画が必要です。例えば、拡声の方向を半分や4分の1方向に限定して配置を計画したり、1方向への拡声を遠距離用のハイパワースピーカやアレイスピーカと近距離用のスピーカを組み合わせて行うなど、検討の余地があると感じました。このようなスピーカ配置計画に関しても研究に取り上げて欲しいと意見を会場で申し上げました。

また、発表者の側からは、屋外拡声システム(防災無線)の計画において、市民が聞く音声の視点からシステムを包括的に見る音響の専門家の必要性が指摘されました。当然のことと思いますが、そうでない現状が残念です。改善を期待したいです。

■ポスターセッション(建築音響分野)

音響学会ポスター










 ポスターセッション会場の様子

2日目の午前に建築音響分野のポスターセッションがありました。

興味あるホール等の音響設計事例としては、大阪のフェスティバルホール(日建設計・永田音響設計)、仙台市青年文化センター・コンサートホールの改修(NHK-ITEC)、愛知県立芸術大学音楽学部新校舎(日建設計・東大生研)、穂の国とよはし芸術劇場「PLAT」(ヤマハ・大成建設)の発表がありました。

そのうち、愛知県立大学の事例は、音響的に必要な要件を素直にデザインに取り入れた模範的な例と思いました。音響的要件を設計者などに理解してもらうのにとてもよい参考例になります。社内に音響部門がある日建設計ならではの事例と感じました。

■公共空間における音環境の実状と期待される性能

音響学会03










 会場の様子

3日目のスペシャルセッションは上記のテーマで、商業施設、駅、公園、学校・保育所、病院、オープンスペースといった施設について招待講演がありました。

話の共通点をまとめると、

商業施設: 昔の百貨店では音もサービスとして配慮されていたが、最近の大型店、アウトレットモールではない。
駅: 設計条件に音が含まれていない。
学校・保育所: オープンプラン教室には音響的処理が重要だがまだ不十分。最近増えいてる保育所の音環境が酷い。
病院: スピーチプライバシーは北米では設計条件に含まれているが、日本では含まれていない。
オープンスペース: デザイナーに音環境を体験させ理解を求めている。

といったもので、音環境が重要でありながらも施設計画に盛り込まれない現状の報告が多くありました。
その理由としては、発表者の一人が言われたという次の返答がすべてを表しています。

「音環境を良くしたほうがいいのは分かるが、良くしても我々の儲けにはつながらない」

でも、これを聞いて、落胆しているばかりではしょうがないですし、逆に状況を変える取っ掛かりが分かりました。

「音環境による経済効果」をアピールして行くことです。みんなで考えてアピールして行けばきっと変えられます。 

■特別イベント「手筒花火」

2日目の発表会後に豊橋技科大近くの神社にて地元伝統の「手筒花火」の特別奉納が行われました。はじめて見ましたがとてつもない迫力です。

手筒花火小 「ようかん」という小型の
 もの。
 片手で持つのですが、
 実は一番熱いそうです。

手筒花火中 「三斤」という中型のもの。
 腰の脇で構えます。
 凄い迫力です。




手筒花火大 「五斤」という大型のもの。
 もはや勇者でなければ
 できません!!


以上、久しぶりにいろいろな方に再会もし、有意義な3日間でした。

日本音響学会の次回の研究発表会は、平成26年3月10日〜12日に東京・御茶ノ水の日本大学理工学部で開催される予定です。
 
9/20、日本音響家協会東日本支部主催の第4回ネットワークセミナーにパネラーとして参加しました。このセミナーは劇場やホールにおけるネットワークを取り上げたもので、4回目の今回は無線LANを切り口として3部構成で行われました。

SEASパンフ 

■第1部:改修が終わった東京芸術劇場のネットワーク構築の事例紹介

第1部では、まず、昨年夏に大規模改修を終えた東京芸術劇場の全館ネットワークの基本構想について石丸氏(東京芸術劇場)から、その具体的な実現方法について多和氏(日本電気)から紹介がありました。

同劇場では改修にあたり、施設利用予約や備品貸出管理などの事務用、海外のスタッフとテレビ電話しながら舞台制作を進めたりする際などの利用者用、設備の遠隔管理などの制御用、将来のコンテンツ配信等に備えた信号用という用途を想定し、4系統の全館ネットワークを整備してそれを実現されたとのことでした。

それに加えてホール毎にクローズした舞台機構・舞台照明・舞台音響設備用のネットワークが並存し、機器のリモート監視や操作、管理に活用されているそうです。

音響設備でのネットワーク活用としては、新たに音響工房を設け、サーバーに効果音などの各種素材を保管管理し、各ホールをはじめ必要各所から素材のピックアップなどができるようにされたそうです。

いずれの用途も劇場運営にネットワークの利点が活かされていると感じます。これは劇場を長年運用してこられた方々の意見を元に積み上げる改修のメリットといえるでしょう。運用者がどのような事がしたいかが設計時に明確だった事がとてもよく表れていると感じました。

技術面での特徴は、バーチャルLAN(物理的に1系統のネットワーク内に仮想的に複数のネットワークを構築する)により費用対効果を上げているとのことでした。

幹線は光ファイバーで、末端の必要個所に無線アクセスポイントを設置し無線化しているそうです。無線LANのチャンネルは2.4GHz帯と5GHz帯をすべて使って全体でプランニングされていました。

また、劇場のように多くの方が入れ替わり利用する場合、ネットワークのパスワードの変更・管理が重要との話に納得しました。同劇場では公演毎にパスワードを変更してセキュリティを確保しているそうです。業務的には意外に大変そうですので、忘れずにシステム化しておくべきと感じました。

これらの話を聞いて、これまで私は音響設備のネットワークだけしか考えてきませんでしたが、もはやネットワークは劇場運用に大きく関わる施設全体のインフラとして考える必要があると痛感しました。
今後の施設設計において、ネットワーク専門の設計担当者が必要であるとの石丸氏の発言にとても納得しました。

SEASセミナー風景










 セミナー会場の様子

■第2部:ネットワーク/無線LANに関する施設設計・施工事例と製品の紹介

第2部では設計・施工者4者から事例紹介が、メーカ6者から製品紹介がありました。

私はコンサルタントの立場から自身の方針として、舞台音響設備における無線LAN機器の設計について、「基本的に有線LANでネットワークを構築し、無線LANは二次的、補助的に使用できるようにしている」ことを紹介しました。

具体的にはつぎのようなことです。
(1)ミキサーやプロセッサ機器のリモートコントロールなどは有線LANをまず構築し、その上で無線LANでも使用可能とする。
(2)インカムは必ず有線インカムとの併用とし、ワイヤレスインカムのみのシステムにはしない。
(3)2.4GHz帯のワイヤレスマイクは原則採用しない。

理由として以下の説明をしました。
(1)電波である以上、かつ無線LANの規格上も、通信安定性は保証されない。
(2)2.4GHz帯では干渉なく同時使用できるチャンネル数が3つしかなく、かつ混雑している。
(3)大型会議等では観客用のインターネット接続用無線LANが要求され優先される。
(4)デモ時には問題なくても本番になるとトラブルが起こるケースが多い。

以上を見ると否定的な印象を持たれるかもしれませんが、私は決して無線LANを否定している訳ではありません。とても便利なことは重々理解しています。ただ、その利便性を適切に活用し、重大なトラブルを回避するためにも、システムの問題点や限界も十分に理解しておくべきということです。

■第3部:メーカ・代理店、設計・施工者、ユーザーの3分野の方々による座談会

第3部は、第1〜2部のパネラーにホール技術スタッフやサウンドチューナーの方々が加わり、更に日本音響家協会の北海道支部ともSkypeで繋いで座談会形式で進行されました。

ホール技術スタッフの方からは、同じ建物内でホールに近接する他施設からの無線LAN電波や隣接する鉄道駅からの電波などによって舞台照明のワイヤレス操作に影響を受けた例などが紹介されました。無線方式を2.4GHz帯から旧式のラジコン用電波帯に変更して対策した例の報告もあり参考になりました。

サウンドチューナーの方からは、客席で音を聴きながらスピーカのチューニングをするのに無線LANでのプロセッサ遠隔操作は欠かせないが、2.4GHz帯は混雑で使いものにならないので5GHz帯を使用していること、ただし本番は有線LANしかもバーチャルLANでなく専用線という責任もてる回線を使用しているとの発言がありました。「責任もてる回線」という表現に納得しました。

また、最近ではWiFi内蔵PC+アプリや専用機器で電波状況を簡単に調べることができます。実際にホールや屋外イベント会場でのWiFi電波状況を調べた結果が紹介されましたが、どれも2.4GHz帯は壊滅的な混雑状況でした。

このような状況を北海道支部に問いかけたところ、北海道ではそのような混雑状況はないとの返答でした。2.4GHz帯のワイヤレスマイクについても特に問題になっていないようで、無線LANの状況は地域や場所による違いが大きい事を気づかされました。

***

このように長時間に渡りましたが、大変内容の濃いセミナーでした。私自身も勉強になりました。
施設計画においてネットワークはもはやいち設備の範疇ではなく施設全体のインフラとして考えるべきと言ったのと同様に、このようなソフト面も含めた問題や情報交換も舞台音響、照明、機構さらには企画や管理といった様々な立場の方々の部門を超えたコミュニケーションが重要であることを実感しました。

日本音響家協会のHPに本セミナーの報告が掲載されていて、今回のセミナーの録画も見られるようですので、興味ある方はチェックしてみてください。

日本音響家協会 関連ページ
http://seas.or.jp/news/various.html#anchor2013_9_20

 9/20に日本音響家協会(東日本支部)主催の第4回ネットワークセミナーが開催されます。

このセミナーは劇場やホールにおけるネットワークを取り上げたセミナーで、第4回の今回は無線LANを切り口にセミナーが展開されるとのことです。

セミナーは3部構成で、
1部:改修が終わった東京芸術劇場のネットワーク構築の事例紹介
2部:ネットワーク/無線LANに関する施設設計・施工事例と製品の紹介
3部:メーカ・代理店、設計・施工者、ユーザーの3分野の方々による座談会

私も2部からパネリストとして参加いたします。

興味のある方は是非下記リンクより詳細をご覧いただき、お申込みください。

http://www.seas.or.jp/news/seminar.html#anchor9_20

<概要>
日時:9/20(金)16:00〜20:10(開場15:30)
場所:機械振興会館(東京都港区芝公園)
会費:会員無料、会員外1,000円
定員:100名

 7/30に新国立劇場の中劇場にて行われた「舞台技術運用セミナー2013」に参加しました。
(主催:新国立劇場、協力:公共劇場技術者連絡会、劇場演出空間技術協会、日本舞台音響家協会)

会場の様子 会場の様子

■第1部「ポイントソーススピーカとラインアレイスピーカ」

第1部ではポイントソーススピーカとラインアレイスピーカについて、特徴の解説と聴き比べが行われました。進行は渡邉邦男氏(新国立劇場技術部音響課長)、解説は丹尾隆広氏(ATL)です。

聴き比べの最初は、舞台中央のバトンに吊り下げたポイントソーススピーカ(UPQ-1P×1台)とラインアレイスピーカ(MINA×8台)の違い。ともに客席の同じ範囲をカバーするようにセットされています。

試聴1

ポイントソースは聴き慣れた音と響きで、音の距離感も視覚と一致して感じます。カバーエリア内での音質の変化が少なく、カバーエリア外の減衰もスムーズに感じます。

ラインアレイはやはりカバーエリア内のスピーカから最も遠い席で一番いい音に感じます。複数のスピーカユニットからの音のズレが最少になるからでしょう。低音の音量感がポイントソースよりずっと良いのですが、ウーハーの台数が多いことを考えると当然でしょう。聴く位置による音質の変化は大きく感じますが、響きが少なく、遠方では視覚的な距離以上に音が近く感じます。

次に、スピーカユニットのサイズによる違いをポイントソースとラインアレイで聴き比べました。
 ポイントソース(写真手前。サブウーハは未使用)
 大型:UPQ-1P(15inch)、中型:UPA-1P(12inch)、小型:UPJ-1P(10inch)
 ラインアレイ(写真奥)
 大型:MILO(2×12inch)、中型:MICA(2×10inch)、小型:Melodie(2×8inch)

試聴2 

ポイントソース、ラインアレイともに小型のスピーカほど低音の出を感じます。小型スピーカは少ない台数で使われることが多いので低音を出し気味にしておいてちょうど良いのでしょう。

こうやって試聴すると、それぞれのスピーカには特徴があり、会場や用途に応じて最適なスピーカをチョイスすることの重要性を改めて感じます。

■第2部「幕類の音への影響」

第2部では、舞台でよく使われる様々な種類の幕や布が音をどの程度透過するか検証実験が行われました。これはホリや幕類の裏にスピーカを仕込まなくてはならなかったり、スピーカを布などで隠す必要があることが良くあることから取り上げられたとのことで、とても興味深い実験でした。進行は渡邉氏で、解説は稲生眞氏(永田音響設計)がされました。

スピーカの前に下記の幕や布を垂らした前後で音を試聴するとともに、SIMにより周波数特性も比較できるようになっていました。

試験体:ビニホリ(ゲレッツ・オペラPVC)、大黒・袖幕(ゲレッツ・スーパーサージ)、紗幕、フェルト袖幕(厚さ1mm以下)、ジョーゼット、Pシルク、シーチング、葛城、11号帆布、ドングロス、貫八別珍、毛氈ネル、毛氈フェルト、ベルベット(レーヨン)、ターポリン

ビニホリなし







 分かりにくいですが、スクリー
 ンの左側にスピーカが設置され
 ています。
 ビニホリを垂らす前。

ビニホリあり






 スピーカ前にビニホリを垂らし
 た状態。
 スクリーン上段のグラフが周波
 数特性(緑がホリ設置前、白が
 設置後)

大幅に音が遮られたのはビニルコーティングされたビニホリとターポリン、および厚手で目の詰まった11号帆布や貫八別珍やベルベットで、高音域で10dB以上も減衰がありました。
その次はスーパーサージと葛城で、5〜8dB程度の減衰が見られました。

ほとんど影響がなかったのは紗幕とドングロス(麻布)ですが、どちらも透けるので実用には難しそうです。

影響はあるが程度が少なかったのはフェルト、ジョーゼット、Pシルク、シーチング、毛氈ネル、毛氈フェルトでした。音の減衰は1〜5dB程度です。Pシルクとシーチングは薄さの割には影響が大きく感じられました。薄くても目が細かく詰まっているのが原因と思われます。

セミナーではフェルトが、レベル低下は2dB程度ありますが音質の変化が少なく、透けないでコストも安いので好印象でした。ただし段々に生地が伸びてくるので消耗品として考える必要があります。
※ここでのフェルトは手芸用の厚手のものではなく、1mm以下の薄手のものです。

なお、上記の実験はいずれの幕、布もひだなしの状態で行っていましたが、フェルト袖幕のみひだの有無による差を検証しました。その結果、ひだをつけることで8kHz付近の減衰が少し大きくなりましたが、それ以外に全体的には大きな差はありませんでした。ひだを付けたことで部分的に見かけの厚みが増え、その厚みに関係する周波数付近の減衰が多くなるのだと思われます。

■第3部その1「FIRフィルタを活用した音場制御」

最近一部の音響機器に取り入れられているFIRフィルタを利用したイコライザの特徴と活用例が紹介されました。FIRフィルタは位相特性の変化がほとんど無く、複雑なフィルタも実現できるのが特徴です。ただしその操作は従来とは大きく違います。
進行は石丸耕一氏(東京芸術劇場)、解説は井澤元男氏(EVIオーディオ)と兼子紳一郎氏(ヤマハサウンドシステム)。

まずは、スピーカのクロスオーバーやホーンEQといったスピーカプロセッシングが従来のIIRフィルタに加えてFIRフィルタでも提供されているElectro-VoiceのラインアレイXLC-DVXで、IIRとFIRのプロセッシングを聴き比べました。

たしかにFIRでは音の解像度や分離が良くなった感じがありましたが、その一方で不自然さを感じる面もあったのが個人的に正直な印象です。

次に、FIRフィルタをルームイコライザとして使用するHYFAX AMQ2の紹介と活用例のデモがありました。AMQ2は現場に設置されたスピーカの再生周波数特性を測定し、それを目標特性(例えば、あらかじめ無響室などで測定したスピーカの素の再生周波数特性)と比較し、差分から逆特性となるFIRフィルタを作成し、音を補正するものです。

プラネタリウムなどでドーム状有孔スクリーン背後に設置されたスピーカの補正や、劇場等でスピーカ前面に化粧桟があるような場合の補正に有効で、従来よりきめ細かい補正ができるとのことです。

デモでは、第2部で取り上げられたように、ビニホリや大黒幕などの背後にスピーカを設置しなくてはならない場合を想定して、幕による音への影響をFIRフィルタで補正することが行われました。
スピーカ前にホリを降ろした後でFIRフィルタによる補正をONするとホリで遮られた中〜高音が回復し影響がだいぶ補正されました。でも、幕裏ではすごい音になっています。
幕1枚あたり20分程度の測定時間で済んだとのことで、音作りの時間の短縮も期待できるとのことです。

AMQ2は、何を目標性能とするのか、と、現場測定のポイントをどこにするかを決めるのが難しい点でしょう。また、現状ではメーカの技術者しか測定調整ができないのも課題で、誰でも操作できるようにしてほしいと石丸氏がコメントしていました。

■第3部その2「新発想の小型スピーカ」

最後は渡邉氏の進行、長谷部友洋氏(ライブギア)の解説で、k-array社のロープ状スピーカ(アナコンダ)や500mmスティック状スピーカなど変わり種スピーカの紹介とデモがありました。

 スティックスピーカ
 舞台上に配置したロープ状スピーカと    長さ500mmのスティック状スピーカ
 舞台下の低音用スピーカ

どちらもそうですが、特に500mmのスティック状スピーカは見た目以上にパワーが出るので驚きました。想像以上に様々な場所に使えそうです。


このように内容盛り沢山のセミナーでした。興味を持たれた方は是非来年ご参加ください。(ただし来年のテーマが音響とは限りません)